企業分野の保険は貨物保険、船舶保険、運送保険などとたくさんありますが、メインとするリスクが何かによって対応する保険が異なってきます。その中でも、企業活動の根幹である物流におけるリスクをカバーするのが運送保険です。運送保険は企業活動そのものを補償する為の保険であるから、運送業者が運送保険に加入しておくことが、荷主や元請運送業者への信用・信頼にも繋がります。
では、運送保険はどんなリスクをカバーするのか、どんな業種に向いてるのかを解説します。
目次
運送保険とは
運送保険は、輸送中の偶発的な事故によって保険の目的である貨物に生じる損害をてん補する保険です。
主に、日本国内を陸上輸送、航空機積み輸送、自動車航送船輸送される貨物が、運送されている間のリスクを補償します。
運送されている間のリスクには、運送に付随する保管、加工、作業、展示等のリスクも含まれており、これらのリスクも合わせて担保出来ます。
主な補償内容
輸送用具の衝突、輸送用具の転覆・横転、火災、爆発、盗難、雨や雪などの水濡れ、破損等の偶発的な事故の結果生じる損害を担保します。
なお、保険商品によってはほぼ全てのリスクが担保されるオールリスク型と、特定の限定されたリスクのみを担保する商品がありますので、パンフレット等を見て確認しておきましょう。
賠償責任保険と物保険
運送保険は大きく分けて「賠償責任保険」と「物保険」の2種類に分かれています。
「物保険」は荷主が自分の所有物に対して物自体の損害を補償するための保険であり、「賠償責任保険」は運送業者が荷主から受託した貨物に生じた損害により、荷主に対する賠償責任を負担することによって被った損害を補償するための保険です。
「賠償責任保険」は運送業者向け、「物保険」は製造業者向け
「賠償責任保険」と「物保険」は、「契約者・被保険者」「保険の目的」「補償するリスク」がそれぞれ異なります。
物保険の「契約者・被保険者」は荷主であり、賠償責任保険では運送業者となります。
したがって、運送保険の賠償責任保険は運送業者向けであり、物保険は製造業者・小売業者・卸業者向けの保険となります。
「保険の目的」となる貨物は、物保険は荷主の所有物であり、賠償責任保険は荷主から受託した貨物になります。
「補償するリスク」は、物保険は物自体の損害のリスクであり、賠償責任保険は荷主に対する賠償責任によるリスクを補償します。
「契約者・被保険者」「保険の目的」「補償するリスク」をそれぞれ正しく理解したうえで適切な保険に加入しましょう。
では、「賠償責任保険」と「物保険」をそれぞれより詳しく確認してみましょう。
「運送業者貨物賠償責任保険」とは
運送保険の賠償責任保険、いわゆる「運送業者貨物賠償責任保険」とは、運送業者が荷主から受託した貨物に対して、荷主に対する賠償責任のリスクを補償する保険です。
運送業者が荷主に対して負担している賠償責任は、法律上の賠償責任と約款上の賠償責任があります。
その為、運送業者が万が一注意を怠ったことにより貨物に損傷等が生じた場合は、荷主に対して損害賠償責任を負担しなければなりません。
そこで、その損害賠償責任をカバーするのが、「運送業者貨物賠償責任保険」です。
補償範囲
運送保険の賠償責任保険は、運送業者が荷主から受託した貨物を運送・保管・作業している間に生じた、輸送用具の衝突、火災、爆発、盗難、破損等の損害が生じた際の、荷主・元請運送人に対する賠償責任を包括的に補償します。
運送業者が荷主に対する賠償責任が生じていることが保険金支払いの条件となるため、天災や追突被害事故など賠償責任がない事故によって生じた貨物の損害については、補償されませんので荷主の自己負担となります。
緑ナンバーは加入必須?!
運送業者が万が一注意を怠って受託貨物に損害が生じた場合、荷主に対して契約上と法律上の賠償責任を負うことになります。したがって、法令に基づき以下のような事業を営んでいる、いわゆる緑ナンバーの運送業者は賠償責任保険の加入は必須となります。
緑ナンバー
・一般貨物自動車運送事業
・特定貨物自動車運送事業
・貨物軽自動車運送事業
・貨物利用運送事業を営んでいる運送業者
例えばこんなとき補償されます
契約内容、事故状況、貨物によって支払われる保険金は異なりますが、運送業者貨物賠償責任保険の支払い対象となる輸送・作業・保管に伴う事故例を紹介します。
例えば・・・
・衝突回避のための急ブレーキにより荷崩れし、受託貨物が破損した。
・スピードオーバーによりカーブを曲がり切れず、トラックが横転し受託貨物が破損した。
・フォークリフトでトラックから荷下ろし中、貨物を落下させ受託貨物が破損した。
・輸送中の冷凍機の故障により、冷凍マグロが解凍されてしまった。
運送業者貨物賠償責任保険の特約
上記の基本的な補償にプラスして、以下のような特約やオプションを付帯して補償を充実させることが出来ます。代表的な特約を紹介します。
「物保険」とは
物保険とは、荷主が荷主の所有物に対して、その「物」自体に生じる損害のリスクを補償する保険です。
貨物自体に損害が生じていることが条件となるので、賠償責任の有無にかかわらず貨物の損害については補償の対象となります。
したがって、例え輸送を依頼している運送業者が賠償責任保険に加入していたとしても、荷主自身も物保険で備えておく必要があります。なぜなら、天災、一方的な追突被害事故、不可抗力によって被った損害はその運送業者に賠償責任がなく、賠償責任保険の対象外となるからです。
補償範囲
契約者である製造業者・小売業者・卸売業者が所有・管理している製品・半製品・原材料等を、輸送中・保管中・加工中など取引先や消費者に引き渡すまでの間、火災・爆発・風災・水災等ほとんどすべての偶然な事故による損害を一貫して補償する保険です。
例えば、生産ラインから製品を運ぶ際に誤って製品を落下させるという事故があった場合、製品の保管中や納入先までの輸送中だけでなく製品の加工中も含めてオールリスクで補償されるが物保険の特徴です。
例えば、火災保険では自社工場の倉庫に保管中・使用中のリスクしか補償されないため、運送中は運送業者に賠償請求するだけとなり、不完全な補償しか受けられない可能性があります。
しかし、物保険であれば商品・原材料の運送・保管・加工中のリスクを水災も含めて、オールリスクで一貫した補償を受けられるのは大きなメリットではないでしょうか。
輸送中の損害
輸送開始のため、貨物が保管場所等より輸出された時から、通常の輸送過程を経て、仕向地で搬入作業までの期間(区間)に偶然な事故によって生じた衝突・破損・盗難・紛失などを補償します。
保管中・加工中の損害
保管中・加工中とは、保管場所・加工工場に貨物がある間(区間)で輸送中を除いた期間に偶然の事故によって生じた火災・爆発・風災・水災・破損・盗難などのリスクを補償します。