輸出取引において、海外の取引先との債権回収リスクに備える保険として輸出取引信用保険があります。輸出取引信用保険とはどのような保険なのか、また、輸出にかかわる保険として海上保険とはどのような違いがあるのか紹介します。
輸出取引信用保険とは
輸出取引信用保険とは、日本からの輸出取引において、取引先の倒産や債務不履行の発生、取引先所在国の輸入制限、為替制限、戦争、天災などの発生によって売掛金などの代金債権が回収できない場合に、その損害の90%など一定部分について保険金を支払う保険です。
- 信用危険:取引先の倒産や債務不履行などの発生
- 非常危険:取引先所在国の輸入制限、為替取引制限、戦争、天災などの発生
保険金によって損害が補償されるので、海外の取引先の倒産などによるキャッシュフローへの影響を軽減させることができます。
昔は通産省、独立行政法人日本貿易保険(現:株式会社日本貿易保険)が運用する公的保険である貿易保険のみが存在していたのですが、規制緩和の一環として2005年4月より民間の保険会社にも開放されました。民間の保険会社では貿易保険ではなく輸出取引信用保険などの名称を用いています。
輸出取引信用保険のメリット・デメリット
輸出取引信用保険に加入することによるメリットとデメリットを紹介します。
メリット
キャッシュフローへの影響を軽減
売掛金等が回収できずに貸倒損失が発生した場合でも保険金によって一定の補償を受けられるので、キャッシュフローへの影響を軽減することができます。キャッシュフローへの影響を抑えることで対外信用力を高める効果も期待できます。
費用の平準化
貸倒損失が短期間に複数発生した場合や巨額な貸倒損失が発生した場合、会社の財務に与える影響は大きなものになります。輸出取引信用保険に加入すれば、貸倒損失の一部を毎期の保険料負担として平準化することができます。
与信管理の強化
契約する保険会社およびその保険会社の提携会社が有する情報に基づいて審査を行うため、与信管理業務の効率化や与信管理機能の強化が期待できます。保険会社は保険加入時のみならず継続的にモニタリングを行っていて、問題が生じた場合には与信限度額の引き下げなどが行われるので、取引先の信用力の低下を察知することができます。
デメリット
特定の会社のみを対象にできない
輸出取引信用保険は原則としてすべての取引先を保険の対象とします。特定の一社のみを対象にするというようなことはできません。なお、年間取引高が〇円以上や上位△社などのような基準で一部の取引先のみを対象とできる場合もあります。
小規模な企業には使いづらい
輸出取引信用保険は基本的に一定の規模以上の輸出取引がないと引受の対象とはなりません。そのため、小規模な企業には輸出取引信用保険は使いづらいものとなっています。
海上保険との違いは?
輸出に関する保険というと海上保険を思い浮かべる方もいると思います。同じ輸出に関係する保険ではありますが、輸出取引信用保険と海上保険では保険の対象が異なります。
海上保険は物の保険であり、海外へ輸送中の貨物が船舶や航空機などで輸送されている間の不測な事故によって受けた損害を補償する保険です。一方で、輸出取引信用保険は上で説明してきた通り、海外取引先の倒産や取引先所在国の輸入制限などにより売掛金等を回収できない場合の損失を補償する保険です。
ともに輸出にかかわる保険ですが、対象が全く異なる保険ですので違いをよく理解しておきましょう。
まとめ
輸出取引信用保険は日本からの輸出取引において、取引先の倒産や債務不履行の発生、取引先所在国の輸入制限、為替制限、戦争、天災などの発生によって売掛金などの代金債権が回収できない場合に、その損害の90%など一定部分について保険金を支払う保険です。貸倒損失発生時にキャッシュフローへの影響を小さくする、コストを保険料として平準化する、与信管理の強化という効果が期待できます。一方で、包括的な保険であり、特定の一社のみを補償の対象にすることはできない、契約するのにある程度の取引の規模が必要というデメリットもあります。財務の安定のために有効な手段の一つであるため、海外取引先の債権回収や与信管理に不安がある場合は輸出取引信用保険を検討してみましょう。