『工事保険』というと工事に関する事故や災害すべてを包括して補償してくれる保険と思われてしまうかもしれません。実際は、対象となる工事内容(業務内容)や業種、使用機材等によって必要な保険は分かれています。つまり工事保険とは、そうした保険をまるごと指す俗称になります。契約内容と補償範囲をしっかりと理解しておかないと、加入中の工事保険では補償されなかったということもありえるのです。
目次
工事保険とは
工事保険というのは俗称で、土木建設業や電気工事、塗装、リフォーム事業等を営む会社が損害保険会社と契約する保険を指します。建設工事であれば建物工事保険、土木工事であれば土木工事保険というように事業内容によって区分されており、異なる業務内容の保険では損害が発生しても補償対象外となってしまいます。
また、事故が発生した際に被害を受けたのが従業員なのか、第三者の通行人なのかによっても補償される保険は変わるため、どの工事保険が何を補償できるのかきちんと把握しておく必要があります。事業内容と異なる工事保険に加入してしまうといざという時に保険金が下りず、何年も無駄に保険料を支払ってしまったということもありえるので注意が必要です。
事業内容 | 対応する工事保険 |
---|---|
建設工事 | 建物工事保険 |
プラント、設備、機械、鋼構造物 | 組立保険 |
土木工事 | 土木工事保険 |
次に、事業内容や被害内容に対してどのような工事保険が対応しているのか見ていきましょう。
着工から引き渡しまでの間に工事対象物が損害を受けた場合は?
工事保険は業務中に工事の対象物が損害を受けた場合に補償される保険です。従業員や通行人がケガをしてしまった場合の補償は、工事保険ではカバーできません。
建設工事保険
建設中に発生した事故による損害をカバーしてくれます。
■対象
- 住宅、マンション、事務所ビルその他の建築工事
- 増築、改築、改修工事
建設工事保険はあくまでも「建設工事」が対象となるため、解体工事や撤去、分解は対象外となります。
組立保険
機械や機械設備、機械装置、鋼構造物等の据付、組み立てを主体とする工事が対象となります。
■対象
- 発電機、発電設備、プレス機械、ケーブル、エレベーター、エスカレーター
- 各種製造工場・加工工場、化学プラント、石油精製プラント、発電所
なお、航空機や機関車、自動車等の車両や、原料、燃料は組立保険の補償範囲外になります。
土木工事保険
道路工事やトンネル工事等の土木工事が対象になります。
- 地下鉄事故で火災が発生した場合
- 工事現場に保管中の工事用資材が盗難に遭った
といったケースも補償対象です。
工事中に作業に従事する従業員や下請け業者等が労災事故を負った場合は?
任意労災保険
いわゆる「労災」は政府が運営母体となっている公的保険制度の労災保険と、民間の保険会社が販売している任意で加入するタイプの労災保険の2種類あります。任意労災保険は政府労災の認定を待たずに保険金が下りる他に、政府労災ではカバーできない
- 慰謝料が発生した場合
- 見舞金を負担する必要が出た場合
といったケースに対応しています。
ちなみに任意労災保険について調べてみると保険会社によって『任意労災保険』『労働災害総合保険』や『労災上乗せ保険』等さまざまな呼び名があることが分かります。これは基本的にはすべて同じ保険を指し、保険会社によって名称や補償範囲が異なると考えて良いでしょう。
任意労災保険は『法定外労災保険』と『使用者賠償責任保険(EL保険)』の2つの補償がメインとなり、保険会社によってはどちらか片方だけの契約も可能です。
法定外労災保険
政府労災とは別に会社が定めた従業員のため補償です。
業務上の災害で従業員に万が一のことが起きた時や、ケガや病気になってしまった時のために以下を補償してくれます。
- 死亡・後遺障害保険金
- 入院給付金
- 通院給付金
また、通常の労災は経営者・会社役員は対象外になりますが、法定外労災保険は補償対象となります。経営者や会社役員が業務上の災害でケガや病気になってしまった時のために法定外労災保険が役立ちます。
更に、次に説明する使用者賠償責任保険が下りるまでの繋ぎとして使用することも可能です。
使用者賠償責任保険(EL保険)
業務上の災害によって心身に障害を負ってしまい、労災認定を受けた従業員または遺族が企業に対して損害賠償請求をすることがあります。従業員または遺族に対して損害賠償金を支払うことになった際に、賠償金とその解決にかかった費用を補償してくれるのが使用者賠償責任保険です。
損害賠償金を全額支払ってくれるわけではなく、
損害賠償総額-(従業員自身の過失分+会社負担分+会社が独自に決める補償額)=労災保険からの支給額
です。
施主や第三者の物を壊してしまったりケガさせてしまったりした場合は?
請負業者賠償責任保険
- 作業中に施主や通行人等の第三者をケガさせてしまった場合
- 作業中に第三者の物を壊してしまった場合(工事現場の隣の駐車場に駐車してあった車を壊してしまった等)
生産物賠償責任保険(PL保険)
- 引き渡し後に事故が起きた、第三者をケガさせてしまった場合
まとめ
■補償範囲を間違えると保険金を受け取れない
工事保険は工事内容(業務内容)や業種、使用機材等によって補償される保険が細分化されており、補償範囲を間違えたまま加入してしまうと必要な時に保険金が支払われないという事態に陥ってしまいます。
工事保険に入っていれば工事対象の損害も工事中の従業員のケガもなんでもカバーできる…というわけではありませんので、加入を検討する場合は保管会社が定める補償範囲を確認してみましょう。
■保険の種類によっては公共工事の受注にプラスになる
元請業者によっては下請け工事の際に工事保険への加入を義務付けるケースもあり、また、労災の上乗せとなる保険は公共工事の受注に大きな影響を持つ経営審査制度の評点の加点となります。このことから、工事保険は建設業者にとって加入する必要性が高い保険と言えます。しかし工事高によって保険料も高額になるため、一括見積もりで必要な工事保険を比較してみてはいかがでしょうか。