従業員が業務上ケガをしてしまったり万が一のことが起きてしまったりした時に備えて加入する『労災上乗せ保険』ですが、具体的にはどのような損害をカバーしてくれるのでしょうか?加入するメリットや加入時の注意点もあわせて確認してみましょう。
目次
労災上乗せ保険とは?
いわゆる「労災」は2種類あり、1つ目は政府が運営母体となっている公的保険制度の労災保険、2つ目は民間の保険会社が販売している任意で加入するタイプの労災保険です。労災上乗せ保険は2種類目の労災に該当し、政府労災でカバーできない範囲を補償する任意の労災保険です。
任意労災保険、業務災害補償保険、労働災害総合保険とも呼ばれますが、保険会社によって名称が違うだけで基本的にすべて労災上乗せ保険と同じです。
労災上乗せ保険には主に2種類の保険があります。
法定外補償保険(法定外労災保険)
従業員が業務上ケガや病気になってしまった際に、治療費等を政府労災に上乗せする保険です。会社の福利厚生をより手厚くしてくれる保険で、以下を補償してくれます。
- 死亡・後遺障害保険金
- 入院給付金
- 通院給付金
また、通常の政府労災は通常は経営者や会社役員は対象外になってしまいますが、法定外補償保険は補償対象となります。
使用者賠償責任補償保険(EL保険)
事業主が損害賠償請求を受けるリスクから会社を守ったり、費用をカバーしたりしてくれる保険です。従業員から損害賠償を請求されるリスクにも対応しています。
労災上乗せ保険の必要性
政府労災との違い
政府労災と任意労災の違いを比較してみましょう。
任意労災は加入義務がない
政府労災は1人でも従業員を雇っていたら加入必須ですが、任意労災は名前の通り任意での加入となります。
補償額
政府労災の休業補償は賃金の最大80%までとされていますが、任意労災では休業補償額は企業が契約時に定めた保険金額に従って一定額または一日あたりの平均賃金に基づいた金額が支払われます。
補償範囲
政府労災は慰謝料が補償対象外になっています。業務上の死亡事故や後遺障害が残る事故が発生しても、遺族や被害にあった従業員に慰謝料は支払われません。そのため、遺族や従業員に労災訴訟を起こされ多額の損害賠償を支払わねばならなくなった場合、政府労災だけでは支払いをカバーできないのです。中小企業にとって、多額の損害賠償の支払いは事業継続が困難になる可能性も十分あり得ますが、任意労災に加入していればこうしたこうした損害賠償金の支払いだけでなく示談金、弁護士への相談費用等もカバー可能です。
支払い時期
政府労災はケガや病気の重症度によっては労災認定が下されるまでに1年以上時間がかかるケースもあります。一方で任意労災は労災認定がなくても支払い可能な保険会社もあり、被害にあった従業員やその家族(遺族)が給付金を長期間受け取れなくなるリスクを減少できます。
経営者や法人役員は政府労災の補償対象外
法人役員が政府労災に加入したい場合は特別加入となりますが、任意保険であれば法人役員も補償対象に含まれています。
建設業では労災上乗せ保険が必須
建設業では工事現場での事故に備えて、労災上乗せ保険に加入している下請けや一人親方しか現場に入れないことも。特に国から公共事業を請け負う場合は、使用者賠償責任保険への加入が義務になります。
労災上乗せ保険の加入のメリット
政府労災の補償範囲外までカバーできる
政府労災は企業の加入が義務付けられている代わりに公平に必要最低限の補償になっているため、損害賠償訴訟にかかる費用や遺族への慰謝料等は対象になっていません。労災上乗せ保険であれば死亡・後遺障害保険金や入院・手術・通院も保険金または給付金を受け取れます。
無記名形式で加入できる
任意労災に加入する場合、記名方式、無記名方式、準記名方式に分かれます。
記名方式は対象者の名前を一人ひとり登録し、登録してある人だけ労災の補償対象になります。一方で無記名形式は名前の登録が不要なので自分の会社の人間であれば下請け業者を含め無記名で補償されます。月によって現場に入る職人が入れ替わる現場や、下請けや孫請けが参加する現場でも、無記名形式であれば補償対象になります。
保険料を損金算入して節税できる
任意労災保険は保険料を全額損金参入可能です。会計上は費用として計上せず税務上では損金として扱われるため、一般的には節税効果が高くなると言われています。
公共工事受注のための経営事項審査で加点要素になる
国や地方公共団体などが発注する公共工事を直接請け負う際に受ける経営事項審査で、法定外補償保険に加入しておりかつその他のいくつかの要件を満たすと総合評定値に加点されます。公共工事を受注するためには必ず経営事項審査を受ける必要があり、加点アップを狙うのであれば法定外補償保険の加入は必須になります。
労災上乗せ保険に加入する際の注意点
保険会社によって補償内容が違う
労災上乗せ保険は保険会社によって補償内容が異なり、様々な特約を付帯することで補償範囲を広げることが可能です。補償範囲は事業内容にあわせて事業主がカスタマイズする必要があります。
また、使用者賠償責任補償保険は様々なリスクを想定して特約を付けることで対応可能になっており、例えば以下のような補償を付帯できる労災上乗せ保険もあります。
- 精神疾患等をカバーする「労災認定身体障がい追加補償」
- パワハラやセクハラで訴えられるリスクに対応する「雇用慣行賠償責任補償」
補償内容が重複していないか確認する必要がある
企業が自動車保険や賠償責任保険等の複数の保険に加入する場合、すでに加入している保険と補償内容が重複していないか注意しましょう。重複している場合、どちらかの保険が支払われない可能性があります。
工事業者は保険料が割高になる
建設業は他の業種に比べて労働災害が起こりやすいため他の業種に比べて保険料が割高になることがあります。
一人親方は加入できない保険会社もある
労災上乗せ保険は政府労災の補償の上乗せあるいは従業員からの損害賠償請求に備えるための保険です。そのため、保険会社によっては従業員がいない一人親方は労災上乗せ保険に加入できないことがあります。
法定外補償保険と使用者賠償責任補償保険の補償範囲を理解する
賠償金額が確定しないと使用者賠償責任補償保険は支払われません。その間の従業員の入院や治療にかかる費用は、法定外補償保険でカバーしましょう。
まとめ
労災上乗せ保険は政府労災だけでは補償しきれない保険金をカバーでき、建設業では加入の義務化が進んでいます。しかし保険会社によって補償範囲や付帯できる特約に幅があることから、加入前に法定外補償保険と使用者賠償責任補償保険の補償範囲をしっかりと理解しておくことが大切です。
事業内容にあわせて補償範囲をカスタマイズして、過不足なく加入するのがおすすめです。