自社が製造・販売した商品などで消費者等が死傷したり物的な損害を負ったりした場合、多額の損害賠償責任を負う可能性があります。こうしたリスクに備えることができる保険としてPL保険があります。どのような保険なのか、どのような場合に補償されるのかなどについて紹介します。
目次
PL保険とは?
PL保険とは、製造業者等が製造・販売した製品や工事業者等が行った仕事の結果が原因で、他人を死傷させたり、他人のモノを壊したりして法律上の損害賠償責任を負ったことによる損害を補償する保険です。PL保険のPLとは「Product Liability」の略で、日本語では生産物賠償責任保険といいます。
1995年7月に製造物責任法(PL法)が施工され、被害者が製品の欠陥によって損害を受けたことを証明できれば、その製品を製造・販売した業者に過失がなくても損害賠償請求ができるようになりました。被害者保護のために製造業者等の過失の証明を必要とせずに損害賠償請求できることから、製造業者等からの需要が強い保険です。
飲食業や販売業なども対象となる
生産物賠償責任保険や製造物責任法という字面をみると工業製品のみを対象としていると思ってしまいがちですが、製造物責任法で対象となる「製造物」は工業製品のみに限定されたものではありません。「この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。」とされており、特定の業種に限定しているものではないのです。
例として、飲食業や販売業について紹介します。
飲食業
飲食店で行われる料理も製造物責任法における「加工」に該当します。仮に提供した料理により食中毒が発生してしまった場合、製造物責任法により損害賠償責任を負う可能性があります。
過去の事例として、割烹料亭においてイシガキダイ料理によるシガテラ毒食中毒が発生し、製造物責任法に基づく損害賠償責任が認められたことがあります。
販売業
販売業者は自社で製造に関与したわけではないので原則的には製造物責任法により責任を負う立場ではないですが、場合によっては賠償責任を負うこともあります。
製造物責任法における製造業者の中には「輸入した者」が含まれています。そのため、海外から製品を輸入・販売して、その製品に欠陥があって第三者に損害を与えてしまった場合には製造物責任法によって損害賠償責任を負う可能性があります。
また、自社のプライベートブランド製品を販売する場合やOEMで自社ブランドをつけて製造させた場合、ブランド名やロゴの表示方法や製品への関与の度合いにもよりますが、「当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者」や「当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者」として賠償責任を負う可能性があります。
海外で発生した事故向けの海外PL保険もある
海外を対象として製品を製造または販売(輸出)している場合は海外PL保険を検討するとよいでしょう。国内向けのPL保険と同じように、自社で生産・販売した製造物などによって海外で第三者の身体や財物に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に補償を受けることができる保険です。
海外の人との間では示談交渉も大変ですが、海外PL保険では保険会社による示談代行も受けることが可能です(現地の法令等で禁止されていない場合)。また、間接輸出品やグレーマーケット製品についても補償を受けられます。海外では法律や言語などの違いによる困難が予想され、日本国内の水準よりも高い賠償責任を負う可能性もあるため、海外PL保険で備えられると安心できます。
PL保険で補償される範囲
PL保険でどのような場合に保険金の支払いの対象となるのか、支払いの対象となる損害について紹介します。
初めに書きました通り、PL保険は製造業者等が製造・販売した製品や工事業者等が行った仕事の結果が原因で、他人を死傷させたり、他人のモノを壊したりして法律上の損害賠償責任を負ったことによる損害を補償する保険です。PL保険によって以下のような損害に対して保険金が支払われます。
- 損害賠償金
- 賠償責任に関する争訟費用(訴訟費用・弁護士報酬など)
- 損害防止費用
- 求償権の保全・行使費用
- 緊急措置費用(事故発生時の応急手当費用など)
- 協力費用(保険会社が事故解決のために行う要求に協力するために要した費用)
※保険会社によって異なる場合があるため、詳細については契約する保険会社にご確認ください。
対象となる事故例
より具体的に、どのような事故のときにPL保険で保険金の支払の対象となるのか紹介します。
製造・販売した製品の欠陥により損害が発生したケース
- 製造した電化製品に欠陥があり、購入者の家で発火して家屋が焼失した
- 海外から輸入販売した玩具に欠陥があり、遊んでいた子供がケガをした
- 飲食店にて提供した料理によって食中毒が発生した
行った仕事の結果として損害が発生したケース
- 設置した看板が、設置の仕方が悪かったために落下し、通行人にケガをさせた
- スプリンクラーの設置の欠陥により漏水が発生して床が水浸しになり、張替が必要となった
PL保険の注意点は?
製造した製品の欠陥などによる損害賠償リスクに備えられるPL保険ですが、いくつか注意をしておいた方がよいこともあります。「保険金が支払われると思っていたのに支払われなかった」と慌てる事態にならないように確認しておきましょう。
納期遅延による損害などは補償されない
PL保険は製造・販売した製品の欠陥などによって第三者にケガをさせたり、第三者の物を壊してしまったりして損害賠償責任を負ったときに補償を受けられる保険です。そのため、「製品の不良により納品に遅れが生じ、損害賠償を請求された」というようなケースでは補償を受けることができません。
リコールによる回収費用は補償されない
上記と同様に、リコールによる回収費用はPL保険では補償を受けることができません。PL保険は製造物の欠陥などが原因の対人事故や対物事故によって生じた損害賠償リスクをカバーする保険であるからであって、リコールによる回収費用はこれに当てはまらないからです。
なお、PL保険に特約としてリコールによる回収費用に対する補償をつけられる場合もあります。保険会社によっては特約としては用意しておらず、別のリコール保険などの加入が必要となる場合もありますのでご注意ください。
仕事の終了前に発生した事故は補償されない
PL保険は引き渡し後に生じた事故について補償するものであり、作業やサービスの途中で生じた事故については補償の対象とはなりません。例えば工事中に資材を落としてしまい、人や物に損害を与えてしまった場合については補償対象外です。作業中の事故については請負業者賠償責任保険などの対象となります。
まとめ
PL保険は製造業者等が製造・販売した製品や工事業者等が行った仕事の結果が原因で、他人を死傷させたり、他人のモノを壊したりして法律上の損害賠償責任を負ったことによる損害を補償する保険です。飲食業(調理・提供した料理による食中毒など)や販売業(輸入販売した製品の欠陥による損害など)などもPL法により損害賠償責任を負う可能性があり、製造業のためだけの保険ではありません。
PL法では被害者が製品の欠陥によって損害を受けたことを証明できれば、その製品を製造・販売した業者に過失がなくても損害賠償請求ができるようになっており、業者側にとっては賠償に備えてPL保険の必要性が高い状況です。保険会社各社が取り扱っていますので、PL保険の必要性を感じたら見積もりを取ってみましょう。