車を盗まれて、さらにその車で事故を起こされてしまった……。こうした事例は頻繁にあるわけではないですが、十分にあり得る範囲の事故です。このような場合、事故の損害賠償責任はいったい誰が負うことになるのでしょうか。
犯人以外に所有者も賠償責任を負う場合も
車が盗難され、その車で事故を起こされてしまったという場合、基本的にその事故の賠償責任は事故を起こした犯人が負うことになります。ただし、盗まれた車の管理が適切ではなく容易に盗まれる状況にあった場合には、車の所有者も車の管理責任を問われ、事故に対する賠償責任を負う可能性もあります。過去にいくつか裁判例があり、個別の状況に応じて判断が分かれています。
管理責任を問われるような状況とは
実際には個別の状況や事情によって判断されることになりますが、以下のような場合に車の所有者の管理責任が問われる可能性があります。
- エンジンやキーのつけっぱなし、あるいはドアロック未施錠で、第三者が容易に接触可能な場所に駐車していたり長時間車から離れていたりした
- 盗難被害にあった後、速やかに盗難届を出さずに放置した
- 盗難から事故発生まであまり時間が経過していない
など
車を盗まれないためにも、また、不要な賠償責任を負わないためにも、車を離れるときには施錠をきちんと行い、仮に盗まれてしまった場合には速やかに盗難届を出すことが大切です。
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所有者で賠償責任を負った場合、自動車保険は使える?
車の管理責任を問われ、事故の被害者に対する賠償責任を負ってしまった場合、車の所有者が加入している自動車保険を使うことはできるのでしょうか。
この場合では、車の所有者が加入している自賠責保険や自動車保険の対人賠償保険や対物賠償保険を使うことができます。また、盗まれた車に対して車両保険を使うこともできます。
一方で、人身傷害保険や搭乗者傷害保険は使うことはできません。車の所有者などから承諾を得ないで車に搭乗中に損害が発生した場合には補償の対象とはならないからです。最も、車を盗んだ犯人のケガについて自分の保険の補償を使いたいという人はまずいないと思うので気にする必要はないかもしれません。
所有者に賠償責任がない場合、被害者への補償はどうなる?
車の所有者に賠償責任がない場合には、車の所有者の自動車保険の対人賠償や対物賠償は使えません。これらは被保険者が法的な賠償責任を負ったときに、保険契約に基づいて保険金が支払われるものだからです。被害者に対しては車を盗み、事故を起こした犯人が全額賠償することになります。
しかし、こうした事件を起こす人は支払い能力を持っていないことが十分に考えられます。自賠責保険による補償を受けられず、加害者からも十分な補償を受けられない場合は政府保障事業から自賠責保険の支払基準に準じたてん補金が支払われます。なお、健康保険や労災保険などの社会保険からの給付を受けるべき場合は、その分の金額は差し引かれます。
また、被害者が自動車保険に加入していて人身傷害保険を付帯していた場合には人身傷害保険から保険金が支払われる可能性があります。人身傷害保険が使える場合には保険金額を上限として実際の損害額を保険金として受け取れます。人身傷害保険のみを使っても等級には影響しないので、保険料のことは気にせず使うことができます。なお、人身傷害保険から保険金を受け取る場合には政府保障事業から重複して支払いを受けることはできません。
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まとめ
車を盗まれてその車で事故を起こされた場合、事故を起こした犯人が賠償責任を負うのが基本ですが、車の所有者が車の管理を適切に行っていなかった場合は車の所有者も被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。そもそも車を盗まれないためにも、仮に車を盗まれてしまったとしても不要な賠償責任を負わないためにも、車の盗難対策はきちんと行うようにしましょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。