交通事故によって負ったケガの治療は自由診療でしか受けられないと勘違いしている人もいるようですが、健康保険を使うこともできます。ただし、「第三者行為による傷病届」を届け出る必要があるなどいくつか普通とは異なる点も存在します。

交通事故でも健康保険は使える

交通事故でケガをして入院や通院が必要となった場合、自分が加入している「健康保険」（会社が加入している保険や国民健康保険など）を使うべきかどうか、 悩んでいる人は多いようです。また、病院の窓口で、「交通事故の場合は、自由診療しか受け付けません」などと言われて､その言葉を信じている人も少なくありません。

しかし、これだけは覚えておきましょう。交通事故でも健康保険は使えます（ただし、業務中・通勤途中の交通事故であれば労災保険を使います）。健康保険か自由診療のどちらの方法で治療してもらうかは、あくまでも健康保険の被保険者である患者が決めることです。病院の言いなりになる必要はありません。実際に、厚生省からは「交通事故でも健康保険が使えますよ」という内容の通達が出されています（昭和43年通達106号）。

最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。

（昭和43年10月12日保健発第106号）

健康保険を使うのに必要なこと

交通事故によるケガで健康保険を使うには、次の2つのことが必要です。

病院への申し入れ

病院には、健康保険証を提示するのはもちろんのこと、診療に「健康保険」を使いたいということをはっきりと申し入れましょう。

病院側が誤った知識から健康保険を使えないと思い込んでしまっている場合や、多額の治療費の請求ができるという思惑から自由診療にしたがる場合があるので明確な意思表示をすることが大切です。

「第三者行為による傷病届」の届け出

交通事故によるケガで健康保険を使うには加入している健康保険の保険者（全国健康保険協会など）に対して「第三者行為による傷病届」を届け出る必要があります。

これは、交通事故に限りませんが、第三者の行為によってケガを負った場合の治療費は、加害者が負担するものであるからです。被害者が健康保険による給付を受けた場合、保険者はこの部分について加害者に請求することとなります。また、被害者が加害者と保険者から重複して損害の補てんを受けることを防ぐ意味合いもあります。

なお、正式な必要書類について事故後直ちに提出するということまでは求められていません。とりあえずは電話などで保険者に届け出ておきましょう。

自分に過失がある場合は健康保険を使わないと損

自分の側にも過失があるような場合は、特に健康保険を使うようにしましょう。自由診療で治療を受けると、あとで高額な治療費を自己負担しなければならない可能性があるからです。

では、なぜ健康保険を使ったほうが自己負担額が少なくてすむのでしょうか？ 実は、健康保険を使った治療の場合、治療費の基準となる医療点数の単価は、1点あたりどこの病院でも10円と決まっています。ところが、自由診療の場合は（病院によっても異なりますが）､1点あたり平均20円。つまり、健康保険の約2倍なのです。たとえば、医療点数が10万点になった場合、健康保険を使えば治療費は100万円ですが、自由診療の場合は治療内容がまったく同じでも200万円の請求がきてしまうのです。

もちろん、追突事故のように、相手の過失が100%で、治療費を全額負担してくれるということがはっきりしている場合は心配いりませんが、自分の過失が大きいときや単独事故の場合は、あとが大変です。このような事故が起こったときは、「治療費を自分で支払わなければならないので、できるだけ治療費を抑えたいのです」と､病院にはっきりと伝えましょう。 もし、自由診療でなければ受けられない特別の治療が必要なときは､その部分だけ自由診療でお願いすればよいでしょう。

過剰診療には注意

交通事故の被害者は加害者に対して治療費の請求をすることができますが、過剰診療に対しては全額の請求が認められない場合があります。

過剰診療とは、医学的に重要性が低かったり必要性が無かったりする診療のことです。一般的な治療法でなくても症状の緩和に医学的な合理性があるのであれば問題ないこともありますが、加害者が治療費を払うからといって必要以上の治療を行うと思わぬ自己負担が発生することもあるので注意しましょう。