事故を起こして相手の車に損害を与えてしまったときには対物賠償保険で保険金が支払われます。しかし、支払われる保険金は車の時価額までなので、修理費用が時価額を上回っていると事故相手と揉めることもあります。そうした場合に役立つのが対物超過修理費用特約です。どのような特約なのか紹介します。
もくじ
対物超過修理費用特約とは?
対物超過修理費用特約とは、対物賠償保険で補償する事故で相手の車の修理費用が時価額を超えた場合に、その差額に対して自分側の過失割合を乗じた額を支払う特約です。限度額は基本的に50万円ですが、無制限を選択できる保険会社もあります。また、保険会社によっては対物差額修理費用補償特約などと別の名称が使われていることもあります。
対物無制限でも時価額以上は支払われない
対物賠償の保険金額が無制限となっていたとしても対物賠償で支払われるのは相手の車の時価額までです。なぜかというと、法律上の損害賠償責任が発生するのは車の時価額までだからです。法律上支払わなくてもよい金額なので、対物賠償では時価額と修理費用の差額は補償されません。
例えば年式の古い車などで時価額が50万円、修理費用が80万円と修理費用が時価額を上回っていた場合、対物賠償で支払われる保険金は時価額の50万円までです。しかし、判例上そうなっているからと被害者側が納得するとは限らず、泣き寝入りを防ぐために修理費用をめぐって争いになることも多いことから、円満に解決するためにこの特約が用意されています。
対物超過修理費用特約の支払例
対物超過修理費用特約で支払われる保険金は、相手の車の修理費用の時価額を超過した分に自分の過失割合を乗じた金額です。ただし、一般的には50万円が限度となっています。どのような保険金の支払われ方になるのか、例を2つ紹介します。
ケース1:時価額30万円、修理費用50万円、過失割合80:20
過失割合が自分側80%、相手側20%の事故を起こし、相手の車の時価額が30万円、修理費用が50万円かかるとします。この場合、対物超過修理費用特約がないと、対物賠償の時価額30万円×過失割合80%の24万円しか補償されません。
一方で対物超過修理費用特約がある場合、修理費用のうち時価額を超える20万円分についても、それに過失割合の80%を乗じた16万円も補償されます。つまり、対物賠償の24万円とあわせて40万円が補償され、時価額が修理費用を超えている場合の50万円×80%=40万円と同額の保険金が支払われることになります。
過失割合 自分80%:相手20% | 相手の車の修理費用:50万円 | 支払われる 合計額 | |
---|---|---|---|
時価額30万円 | 時価額を超える20万円 | ||
対物賠償のみ | 24万円 (30万円×80%) | 補償なし | 24万円 |
対物賠償+ 対物超過修理費用特約 | 24万円 (30万円×80%) | 16万円 (20万円×80%) | 40万円 |
ケース2:時価額50万円、修理費用150万円、過失割合80:20
続いて、車の時価額に対して修理費用が非常に高額な場合です。過失割合が自分側80%、相手側20%の事故を起こし、相手の車の時価額が50万円、修理費用が150万円かかるとします。この場合、対物超過修理費用特約がないと、対物賠償の時価額50万円×過失割合80%の40万円しか補償されません。
一方で対物超過修理費用特約がある場合、修理費用のうち時価額を超える100万円分についても、それに過失割合の80%を乗じた80万円が補償される計算になりますが、基本的にこの特約で支払われる保険金の上限は50万円なので、この上限にかかって50万円の保険金が支払われます。対物賠償の40万円も加えて、合計で90万円の保険金が支払われることになります。
過失割合 自分80%:相手20% | 相手の車の修理費用:150万円 | 支払われる 合計額 | |
---|---|---|---|
時価額50万円 | 時価額を超過する100万円 | ||
対物賠償のみ | 40万円 (50万円×80%) | 補償なし | 40万円 |
対物賠償+ 対物超過修理費用特約 (上限50万円) | 40万円 (50万円×80%) | 50万円 (100万円×80%=80万円 →上限により50万円) | 90万円 |
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対物超過修理費用特約のメリット
示談交渉がスムーズになる
対物超過修理費用特約のメリットは、示談交渉がスムーズになることです。時価額が修理費用よりも低い場合、対物賠償のみでは時価額までしか支払われません。そのため、自分が加害者側の場合、相手からすると被害を受けた上に修理のためには追加で手出しが必要ということになります。そうすると、泣き寝入りを防ぐために時価額を超えた分の修理費用をめぐって示談交渉が長引いてしまうことも考えられます。
しかし、対物超過修理費用特約がついていれば、時価額を超えた分の修理費用についても保険金が支払われます。そのため、相手側も保険金の支払額について納得がしやすく、示談交渉がまとまりやすくなります。
車の平均使用年数が長くなってきており、事故相手が年式の古い車だという確率も上がっています。年式の古い車だと時価額が低いことが多く、修理費用が時価額を超過するというケースも発生しやすくなります。スムーズな事故解決のためにも必要性が増している特約といえます。
対物超過修理費用特約のデメリット
修理しない場合は対象外
対物超過修理費用特約は相手が実際に修理した場合に保険金が支払われます。修理費用が時価額を上回っていたとしても相手が車を修理するのではなく買い替えた場合には支払われません。
そのため、相手が「新しく車を購入する分のお金を支払え」という要求をしてきたような場合には対応することはできません。無論、こうした要求には対応する必要もないのですが、時価額を超える分について何でも解決できるわけではないということで記しておきます。
使用するか否かは契約者の意思による
契約しているのにわざわざ使わないという人は少ないと思いますが、対物超過修理費用特約を使うか否かは契約者に決定権があります。法的に支払う必要のある損害賠償金ではなく、被害者側から強制的に使わせるようにするということはできません。
被害者側があまりにも失礼な態度で示談交渉に接すると、加害者側としても被害者と対立する気持ちが大きくなり、対物超過修理費用特約を使わないという選択を取ることも考えられます。被害者だとしても無理な要求はせず、最低限の礼は失しないように注意しましょう。
法律上は不要
法律上の損害賠償責任は車の時価額までです。それを超える部分への保険金の支払いを可能とする特約ですが、逆に言うと支払わなくても法律上は問題ない部分に対して特約の保険料を支払うことになります。
ただし、「法律上、支払う必要がない」という説明で相手が納得すればよいですが、そうはいかず、示談交渉が長引いたり裁判に発展したりするケースもあります。そうした負担を軽減できると考えると、相手のためだけの特約ではなく、自分にもメリットがある特約といえます。
対物超過修理費用特約で補償されないケース
対物超過修理費用特約で補償の対象とならないケースも存在します。主なケースを紹介しますが、詳細については契約する保険会社の約款や重要事項説明などをご確認ください。
- 事故日の翌日から起算して6か月以内に修理を行わなかった場合
- 契約者や記名被保険者などの故意によって生じた損害
- 以下の方が所有、使用、管理する財物に対する賠償責任
- 記名被保険者
- 契約の対象となる車を運転していた方またはその父母、配偶者、子
- 被保険者またはその父母、配偶者、子
- 法令等により、定着、固定、装備することを禁止されている部分品に生じた損害
- 法令等により、禁止されている改造を行った部分品に生じた損害
対物超過修理費用特約は必要?
自動付帯ということも多いですが、ダイレクト型(ネット型)の自動車保険などでこの特約を付帯するか選択できる場合があります。そうした場合、この特約を付ける必要はあるのでしょうか?
絶対的な正解はないものの、「事故後の負担は心理的なものも含めてできるだけ減らしたい」と考えるのであればこの特約は付けておいた方がよいでしょう。保険料も数百円程度なので、この特約があることで特別負担が大きくなるということはありません。
一方で、保険料を1円でも安くしたいというのであればこの特約は不要でしょう。なぜなら、法律上は支払う必要がない金額に対しての補償だからです。ただし、示談交渉が長引いたり、警察への届け出において物損事故か人身事故か迷う程度の事故で人身事故として届け出られたりする可能性があることは認識しておいた方がよいでしょう。
まとめ
対物超過修理費用特約は、古い車との事故などで相手の車の修理費用が時価額を超えてしまった場合に役に立ちます。時価額を超えた分の修理費用についても50万円を限度として保険金が支払われるので円滑な事故解決が望めます。
時価額以上に法律上の賠償責任はないのですが、物損だけでなく相手を死傷させてしまった場合などでは交渉が円滑に進まないと量刑に悪影響を及ぼすことも考えられます。車の平均使用年数も伸びているので、修理費用をめぐるトラブルを回避するためにも、この特約をつけることをぜひ検討してみましょう。
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著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。