裁判例に見られる交通事故の死亡・後遺症賠償額の高額ランキングトップ20の集計をまとめました。
最高額は、平成23年11月1日に判決(横浜地裁)が出た人身総損害額5億2853万円の事案です。高額例の特徴としては、事故当時の被害者の年収の高さ、年齢の若さと後遺障害状態(脳に外傷性の損傷を受け、介護の必要となる期間が長い)等が挙げられます。
死亡・後遺症による高額賠償TOP3
- 1位5億843万円死亡
- 判決:平成23年11月1日 横浜地裁/被害者:41歳男性、眼科開業医
被害者は、病院勤務を経て5年前に眼科クリニックを開設した41歳の眼科医。事故前4年間の平均所得が5,500万円を超える高額所得者であったため、逸失利益が4億7,850万円と高額となった。
被害者側は、医師は一般会社員のような定年もなく、70歳まで稼働できると主張したが、裁判所は、眼科開業医の就労可能年齢が70歳であることや所得水準が事故時と同程度であることの立証もないとして就労可能期間を67歳までとした。
事故状況から被害者に60%の過失を認定した。
- 2位4億5,381万円後遺症
- 判決:平成28年3月30日 札幌地裁/被害者:30歳男性、公務員
症状固定後も引き続き46年の余命期間にわたって入院する必要があり、1年あたり840万円の医療費が認められ、また、将来の介護費も1年あたり219万円が認められた。
被害者は症状固定後、国民健康保険法に基づく保険給付等による助成を受けて、入院に伴う医療費を支払っていないが、今後も同様の保険給付等の存続が確実であるということができないことから、損害から控除すべき保険給付等は、当初の3年のものであるとされた。
- 3位4億5,375万円後遺症
- 判決:平成29年7月18日 横浜地裁/被害者:50歳男性、コンサルタント
コンサルタント業の収入として年2400万円を認定し、これを基礎として休業損害や逸失利益を算定しているため、総損害額が高額になっている。
なお、交差点に一時停止せずに進入したことから被害者に65%の過失、人身損害についてはヘルメットを適切に着用していなかったことが傷害や後遺障害の程度に大きく寄与したということから被害者に75%の過失を認定した。
逸失利益とは
賠償金額の算定にあたっては、よく「逸失利益」という言葉を耳にしますが、英語では「Lost Profit」と言い、「本来得られるべきであるにも拘らず、不法行為や債務不履行で得られなかった利益」を指します。
人損事故などでは、怪我の治療費や苦痛に対する慰謝料のほか、本来事故が無ければ得られたであろう給与・収入などが「逸失利益」として損害賠償の対象となります。
ただし、あくまで予測に基づくものであり、本当にそれだけの利益が事故が無ければ得られたのか、あるいはそれだけしか得られなかったのか(事故が無ければもっと利益を得られたのではないか)についての立証は困難であり、各個人の事情などをどれだけ考慮するか、どのように利益額に反映させるかは難しい問題となっています。
金額の算定にあたっては、「ライプニッツ係数」を用いることが多いです。
「ライプニッツ係数」とは、将来受け取るはずの金銭を前倒しで受けたるために得られる利益(中間利息)を控除する係数です。
(例)後遺障害(14級:喪失期間3年)の逸失利益(年収550万円の場合)
550万円×2.829(※1)×5%(※2)=777,975円
(※1)喪失期間3年に相当するライプニッツ係数
(※2)後遺障害14級に相当する労働喪失率
なお、中間利息を控除する係数については、「新ホフマン係数」も用いられていました。
「ライプニッツ係数」が利息を複利計算するのに対し、「新ホフマン係数」では単利計算をします。よって、「新ホフマン係数」を用いた方が控除される金額が少なくなり、被害者側には有利ではありますが、現在は「ライプニッツ係数」にほぼ統一されているようです。
認定された賠償額自体は高額となっていますが、ケースバイケースで被害者側の過失も適用されています。
被害者過失割合の大きいものとしては、平成23年11月1日横浜地裁の判決(高額ランキング第1位)の被害者過失割合60%(歩行者横断禁止規制道路の横断)、平成29年7月18日横浜地裁の判決(同第3位)の65%(バイクで交差点に一時停止せずに進入)・75%(人身損害について、ヘルメットを適切に着用していなかったことにより修正)などがあります。
交通事故民事裁判例に見る人身総損害(死亡・後遺症)高額ランキング 20
順位 | 認定総損害額 | 態様 | 裁判所 | 事件番号 | 判決 年月日 | 事故 年月日 | 被害者 性別・年齢 | 被害者 職業 | 出典 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 5億2853万円 | 死亡 | 横浜地裁 | 平成22年(ワ)第6587号 | 2011/11/1 | 2009/12/27 | 男・41歳 | 眼科開業医 | 自保ジャーナル 1870号 |
2 | 4億5381万円 | 後遺 | 札幌地裁 | 平成27年(ワ)第558号 | 2016/3/30 | 2009/1/7 | 男・30歳 | 公務員 | 自保ジャーナル 1991号 |
3 | 4億5375万円 | 後遺 | 横浜地裁 | 平成27年(ワ)第24号 平成27年(ワ)第1005号 | 2017/7/18 | 2012/11/1 | 男・50歳 | コンサルタント | 自保ジャーナル 2008号 |
4 | 4億5063万円 | 後遺 | 札幌地裁 | 平成31年(ワ)第361号 | 2021/8/26 | 2012/8/17 | 男・19歳 | 大学生 | 自保ジャーナル 2108号 |
5 | 4億3961万円 | 後遺 | 鹿児島地裁 | 平成27年(ワ)第368号 | 2016/12/6 | 2010/11/9 | 女・58歳 | 専門学校 教諭 | 自保ジャーナル 2001号 |
6 | 3億9725万円 | 後遺 | 横浜地裁 | 平成18年(ワ)第4571号 | 2011/12/27 | 2003/9/14 | 男・21歳 | 大学生 | 自保ジャーナル 1865号 |
7 | 3億9510万円 | 後遺 | 名古屋地裁 | 平成21年(ワ)第76号 | 2011/2/18 | 2007/4/13 | 男・20歳 | 大学生 | 自保ジャーナル 1851号 |
8 | 3億9095万円 | 後遺 | 神戸地裁 | 平成26年(ワ)第1026号 | 2017/3/30 | 2009/12/3 | 男・32歳 | ティーチング アシスタント | 自保ジャーナル 1999号 |
9 | 3億8281万円 | 後遺 | 名古屋地裁 | 平成13年(ワ)第1835号 | 2005/5/17 | 1998/5/18 | 男・29歳 | 会社員 | 交民 38巻3号694頁 |
10 | 3億7886万円 | 後遺 | 大阪地裁 | 平成17年(ワ)第2633号 | 2007/4/10 | 2002/12/11 | 男・23歳 | 会社員 | 自保ジャーナル 1688号 |
11 | 3億7370万円 | 後遺 | 東京地裁 立川支部 | 平成24年(ワ)第2250号 | 2014/8/27 | 2010/7/20 | 男・7歳 | 小学生 | 自保ジャーナル 1947号 |
12 | 3億6750万円 | 死亡 | 大阪地裁 | 平成16年(ワ)第8095号 | 2006/6/21 | 2002/11/9 | 男・38歳 | 開業医 | 交民 39巻3号844頁 |
13 | 3億6551万円 | 後遺 | 仙台地裁 | 平成20年(ワ)第321号 | 2009/11/17 | 2004/1/21 | 男・14歳 | 中学生 | 自保ジャーナル 1823号 |
14 | 3億5978万円 | 後遺 | 東京地裁 | 平成13年(ワ)第17934号 | 2004/6/29 | 1997/4/24 | 男・25歳 | 大学研究科 在籍 | 交民 37巻3号838頁 |
15 | 3億5929万円 | 後遺 | 神戸地裁 伊丹支部 | 平成27年(ワ)第323号 | 2018/11/27 | 2010/7/22 | 女・14歳 | 中学生 | 自保ジャーナル 2039号 |
16 | 3億5618万円 | 後遺 | 名古屋地裁 | 平成22年(ワ)第5137号 | 2012/3/16 | 2007/10/26 | 男・25歳 | 美容室店長 | 自保ジャーナル 1874号 |
17 | 3億5332万円 | 後遺 | 千葉地裁 佐倉支部 | 平成16年(ワ)第31号 | 2006/9/27 | 2001/10/4 | 男・37歳 | アルバイト | 判例時報 1967号108頁 |
18 | 3億4791万円 | 後遺 | 大阪地裁 | 平成16年(ワ)第1808号 | 2007/1/31 | 1996/10/21 | 女・18歳 | 高校生 | 交民 40巻1号143頁 |
19 | 3億4614万円 | 後遺 | 仙台地裁 | 平成17年(ワ)第1586号 | 2007/6/8 | 2003/5/22 | 女・25歳 | 会社員 | 自保ジャーナル 1737号 |
20 | 3億3678万円 | 後遺 | 千葉地裁 | 平成16年(ワ)第431号 | 2005/7/20 | 2000/8/18 | 男・17歳 | 高校生 | 自保ジャーナル 1610号 |
※上記判例は、判例掲載誌等により損害保険料率算出機構で把握した事例を対象としています。
※人身総損害額には弁護士費用、遅延損害金は含まず、過失相殺前、既払い金・自賠責保険金控除前の金額