車を運転中に病気や急激な体調の悪化で車の操作ができなくなり、事故を起こしてしまうこともあり得ます。そうした場合、加入している自動車保険で補償を受けることができるのでしょうか。また、運転中に体調が悪くなってしまったらどうしたらよいのでしょうか。
自動車保険の加入・更新はできる?
そもそもとして、持病がある場合に自動車保険の加入や更新はできるのでしょうか。生命保険や医療保険では持病があると保険に加入しづらくなりますが、自動車保険では健康状態に関する告知はなく、運転免許証を取得・保有していて車を所有し運転できる人であれば自動車保険の加入・更新は可能です。
しかし、病気や症状によっては運転免許証を取得・保有することができず、その場合は運転できないので当然ながら自動車保険もその人を記名被保険者として加入・更新することはできません。運転免許証の取得や更新の際には、安全な運転に支障を及ぼす恐れのある「一定の病気等」に関する質問票の提出義務があり、質問票に虚偽の記載をした場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
運転免許を拒否又は保留される「一定の病気等」
「一定の病気等」には次のものがあります。
- 認知症
- 統合失調症
- てんかん
- 再発性の失神
- 無自覚性の低血糖症
- そううつ病、そう病、うつ病
- 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
- その他運転に支障のあるもの(視野が狭くなったなど)
認知症以外の病気については病名によって一律に免許の取得・更新ができなくなるわけではなく、病状・症状による判断となります。
病気が原因の事故で補償は受けられる?
運転中の病気や急激な体調の悪化を理由として事故を起こしてしまった場合、基本的には自動車保険で補償を受けることはできます。相手への賠償である対人賠償・対物賠償はもちろん、自分の車に対する補償である車両保険や自分の死傷に対する補償である人身傷害・搭乗者傷害も補償を受けられます。ただし、事故を起こすことになった病気そのものによる損害は自動車保険では補償されません。自動車保険の補償はあくまでも事故に対するものです。
なお、車両保険・人身傷害保険・搭乗者傷害保険については事故を起こした際の状況や運転に至った経緯によっては重大な過失として保険金の支払い対象外となる可能性があります。道路交通法第六十六条においても、「過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」と規定されており、安全な運転ができないかもしれないと事前にわかっているのであれば補償を受けられない可能性は十分にあるでしょう。そもそもとして、自分だけでなく他人の命をも危険にさらす行為なので、病気の時の無理な運転は絶対に避けましょう。
運転中に体調が悪くなってしまったら
病気や急激な体調の悪化による事故を防ぐには、運転者が自己の体調をしっかりと把握し、体調に不安があるのであれば運転を控えることが大切です。しかし、運転前は問題なくても運転中に急に体調が悪くなるということはあり得ます。そうした場合は、運転を中止し、車を安全な場所に停車させるなどして安全を確保しましょう。停車後も体調に不安があるのであれば救急車を呼ぶなどの救助を求め、無理をして運転を続けるということがないようにするのが命を守るためにも大切です。
国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」より、車を運転する前のチェック項目や即座に運転を中止すべき症状について紹介します。事業者向けのマニュアルですが、一般の運転者にも当てはめることはできるでしょう。
運転前の確認事項
- 熱はないか
- 疲れを感じないか
- 気分が悪くないか
- 腹痛、吐き気、下痢などないか
- 眠気を感じないか
- 怪我などで痛みを我慢していないか
- 運転上悪影響を及ぼす薬を服用していないか
※疾病のみならず、痛みの伴う怪我が原因で運転者が運転中に注意散漫になる場合についても、十分に留意する必要がある。
即座に運転を中止すべき症状
- 左胸、左肩から背中にかけて、痛みや圧迫感、締め付けられる感じが
する - 息切れ、呼吸がしにくい
- 脈が飛ぶ、胸部の不快感、動悸、めまいなどがある
- 片方の手足、顔半分の麻痺、しびれを感じる
- 言語の障害が生じている
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠けるなどの
知覚の障害が生じている - 強い頭痛がする
即座に運転を中止すべき症状については脳・心臓疾患の前兆である場合もあります。また、これらに当てはまらない場合でも体調がすぐれない場合には無理な運転はしないようにしましょう。
まとめ
運転中の病気や急激な体調の悪化により事故を起こしてしまった場合でも自動車保険で補償を受けることはできます。しかし、車両保険・人身傷害保険・搭乗者傷害保険などは事故を起こした際の状況や運転に至った経緯によっては重大な過失として補償を受けられない可能性もあります。また、「一定の病気等」に当てはまる場合は運転免許の取得・保有ができない可能性があり、そうした場合では運転ができないので自動車保険の契約もできません。いずれにしても体調管理に努め、体調が悪くて安全に運転ができそうにないのであれば運転をしないことが大切です。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。