近年、自動車保険においてテレマティクスを活用した保険が登場してきています。テレマティクス保険とはどのような保険なのか、また、導入されることによってどのようなメリット・デメリットがあるのか紹介していきます。
テレマティクス保険とは
テレマティクスとは「テレコミュニケーション(通信)」と「インフォマティクス(情報科学)」を組み合わせた造語で、自動車などの移動体に通信システムを組み合わせてリアルタイムに情報サービスを提供することです。これを活用した保険がテレマティクス保険で、具体的には自動車に設置した端末で計測した走行距離や運転速度・ブレーキのかけ方などの運転情報を保険会社が取得し、その情報から運転者の事故リスクを分析して保険料を算定するような保険のことをいいます。
走行距離連動型(PAYD)と運転行動連動型(PHYD)
テレマティクス保険は走行距離連動型(PAYD:Pay As You Drive)と運転行動連動型(PHYD:Pay How You Drive)に分けられます。
走行距離連動型(PAYD)
走行距離連動型では、端末で走行距離を測定し、走行距離が短ければ保険料を下げ、走行距離が長ければ保険料を上げます。ダイレクト型自動車保険を中心に走行距離区分別の保険料が取り入れられていますが、テレマティクス保険では端末の計測に基づくので、より正確な保険料を算定できます。
運転行動連動型(PHYD)
運転行動連動型では、端末で運転速度や急ブレーキ・急アクセル、ハンドリングなどの運転特性を測定し、安全な運転をしていると判定されれば保険料が下がり、逆に、危険な運転をしていると判定されれば保険料が上がる(あるいは割引がされない)というタイプのものです。テレマティクス保険と聞いて思い浮かべるのはこちらの方が多いのではないでしょうか。安全運転をすると保険料が安くなるので安全運転への意識が高まり、交通事故の減少効果があると言われています。
テレマティクス保険のメリット・デメリット
テレマティクス保険にどのようなメリット・デメリットがあるのか紹介します。
メリット
安全運転をすれば保険料が安くなる
運転行動連動型のテレマティクス保険では、安全運転をすれば保険料が安くなります。特に、10代や20代の運転者への恩恵が大きくなるでしょう。テレマティクスではない従来の自動車保険でも等級制度などにより安全運転を続ければ保険料が安くなりますが、若者の場合等級がまだ低いことが多く、また、個人でどれだけ気を付けていても全体の事故率が高いため、保険料が高くなってしまいがちです。テレマティクス保険では個人の運転特性によって割引を受けられるので、安全運転に気をつければ従来の自動車保険よりも保険料を安くできる可能性があります。
安全運転意識の向上による事故率の低下・渋滞の減少
同じく運転行動連動型のテレマティクス保険では、安全運転をすれば保険料が安くなるので、安全運転への意識が向上します。それによって社会全体の交通事故率の低下や事故による渋滞の減少という効果が見込まれます。また、全体の事故率が下がれば保険会社による保険金の支払額も下がるので全体の保険料が安くなる効果も期待できます。
デメリット
プライバシーの問題
収集する情報によってはプライバシーの問題も出てきます。より正確にリスクを分析しようとすると、位置情報や車内外の映像などよりセンシティブな運転データを収集していく必要があります。不必要にセンシティブな情報を収集しないことや情報の管理の徹底が必要となってくるでしょう。
任意保険未加入者が増加する可能性も
テレマティクス保険では安全運転者は保険料が安くなりますが、逆に安全にあまり注意を払わない運転者は保険料が高くなることが考えられます。そうした運転者は従来の自動車保険にとどまると考えられ、そうなると従来の自動車保険の事故率が増加して保険料が高くなります。そして保険料が高くなると任意保険に加入しない人も出てくるので、結果として任意保険の未加入者が増加してしまう可能性があります。
まとめ
テレマティクス保険とは、自動車に設置した端末で計測した走行距離や運転速度・ブレーキのかけ方などの運転情報を保険会社が取得し、その情報から運転者の事故リスクを分析して保険料を算定するような保険です。テレマティクス保険では、運転者にとっては安全運転により保険料が安くなるメリットがあり、社会的には運転者の安全意識の向上で交通事故の減少や事故による渋滞の減少というメリットがあります。ただし、個人のプライバシーにかかわる情報を収集することにもつながるので、収集する情報の選別や管理の徹底を行う必要があります。また、安全でないと判定された運転者が任意保険に加入しないということを防ぐような仕組みも必要となってくるでしょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。