民法第404条において、利息が生ずべき債権について別段の意思表示がない場合に適用される法定利率が定められています。明治時代に年5%と定められて以降、長らく変わっていなかったのですが、2020年4月1日に施行された改正民法によって年3%に変更され、3年ごとに見直しがされることになりました。
自動車保険料とはあまり関係のない話と思うかもしれませんが、実は法定利率が変わると保険料にも影響があります。いったいどのような関係があるのでしょうか。
法定利率が下がると損害賠償額が高くなる
2020年4月1日に施行された改正民法により、法定利率がそれまでの年5%から年3%に変更され、これにより、被害者が受け取る損害賠償額が増額しました。なぜ法定利率が損害賠償額に影響するかというと、損害賠償額の中には事故によって失われた将来得られるはずだった収入(逸失利益)や将来の介護料が含まれており、それを現在に一括で受け取る場合の金額の計算に法定利率が使われているからです。
分かりやすいように単純化した例で説明します。1年後に100万円を得られるはずだったのに、事故によってそれが失われたとします。この場合、損害賠償額は100万円よりも小さくなります。なぜなら、1年後ではなく現在100万円を受け取った場合、利息によって1年後には100万円以上の金額になるからです。
損害賠償額の決定において、どれだけの利息を得られるかは特に定めがなければ法定利率が用いられます。民法改正前の5%の場合、現在の100万円は1年後には利息を含めて105万円となります。これは逆に、1年後の105万円の現在価値は100万円ということになります。同じように1年後の100万円の現在価値を計算すると、100万円÷1.05=約95.2万円です。
それでは、法定利率が3%に引き下げられた場合で同じような計算をしてみましょう。1年後の100万円の現在価値は100万円÷1.03=約97.1万円となります。法定利率が5%のときと比べて約2万円増えたことが分かります。逸失利益の計算においては1年だけでなくもっと長期間の計算となり(一般的には67歳までの期間)、金額も100万円よりも高額となることも多いです。つまりはより大きな損害賠償額の増加となるのです。
法定利率は3年ごとに見直されることになりました。今後、3%よりも下がることになれば更なる損害賠償額の増加に、逆に3%よりも上がることになれば損害賠償額の減少につながります。
損害賠償額の増加で保険料も値上げに
法定利率の引き下げで損害賠償額が増え、対人賠償や人身傷害で支払われる保険金も増加します。そうすると、保険会社の負担が増えることとなるので保険料の値上げも行われるのです。保険会社も出ていく金額は増えるのに入ってくる金額はそのままとはいきません。実際に、2020年の民法改正時には、その後の契約において多くの保険会社で消費税増税の影響と合わせて保険料の引き上げが行われました。
消費税増税の影響でも保険料は高くなる
「消費税増税の影響と合わせて」と書きましたが、実は自動車保険を含め、各保険の保険料の支払は消費税がかからない非課税取引です。そのため、消費税率が上がったタイミングでそのまま保険料の支払額が上がるということはありません。
しかし、保険会社が支払う自動車の修理費や販売代理店への手数料には消費税がかかっています。この保険会社の消費税増税による負担増を保険料に転嫁するために保険料の値上げが行われるのです。
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著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。