電車との間で事故を起こすと電車の修理費のみならず、復旧に要した人件費や代行輸送料、死傷した方がいればその方への賠償などさまざまな賠償責任が発生し、高額な損害賠償が必要となるケースも多いです。電車との事故での賠償について自動車保険は使えるのか、接触の有無などいくつかのケースに分けて説明します。
もくじ
電車との事故で自動車保険は使える?
車と電車の接触事故の場合
電車と接触事故を起こしてしまい、電車の車両を壊してしまったり電車を運休・遅延させてしまったりして損害賠償責任を負った場合、自動車保険の対物賠償責任保険で補償を受けることができます。また、事故により電車の運転手や乗客などを死傷させてしまった場合は自動車保険の対人賠償責任保険で補償を受けられます。
自賠責保険のみだと対人賠償の補償額に制限があり、対物賠償については補償を受けられません。1億円を超える賠償となることもあるので任意保険にも加入し、対人賠償・対物賠償の保険金額は無制限に設定しましょう。
車で線路上に立ち往生してしまい電車を運休・遅延させてしまった場合(接触なし)
電車が接触する前に停止したものの、電車に運休や遅延が発生し、その損害賠償を求められるケースも考えられます。こうした場合でも最近の自動車保険では対物賠償責任保険の補償対象となることが多いですが、保険会社によっては補償対象とならないこともあります。なぜ判断が分かれるかというと、車両と接触していないので財物に損害を与えたとはいえないからです。財物に損害を与えていないので従来の対物事故の定義に当てはまらず、補償対象とはならないケースが出てくるのです。
ここ1、2年の流れとして、「軌道上を走行する陸上の乗用具を運行不能にすること」というような内容も対物事故に含まれることが増えており、電車との接触を伴わない場合でも補償対象となることが増えてきていますが、すべての保険会社で対応しているわけではなく、契約する保険会社によって補償対象となるか否かが変わるという状況になっています。
認知症の家族が線路内に立ち入り、電車を運休・遅延させてしまった場合
こちらは自動車保険で補償されるとしたら個人賠償責任特約(日常生活賠償特約)の内容です。個人賠償責任特約とは、日常生活において記名被保険者とその家族が他人にケガをさせてしまったり他人のものを壊してしまったりして損害賠償責任を負った場合に補償を受けられる特約です。
自動車保険の個人賠償責任特約とは?どんなときに役に立つ?
自動車保険では特約として個人賠償責任特約を付けられることがあります。漢字が並んでいて難しいイメージを受けるかもしれませんが、日常のトラブルにおいてとても役に立つ特約です。一体どのような特約で、どんなと ...
この個人賠償責任特約で補償を受けられるかは車と同様に接触の有無と保険会社の対応の有無が関係してきます。接触して電車の車両に物的損害を与えた場合は補償対象となるケースが多いですが、電車と接触せずに物的損害を与えていない場合は従来の補償範囲では補償対象とならないです。こちらも認知症患者による事故で本人や家族が賠償を負うリスクについて社会的関心が高まっていることにより、ここ1、2年で補償範囲に物的損害を伴わない電車等の運行不能に対する賠償も含むような会社が増えてきています。
認知症患者の賠償リスクを背景に補償範囲に追加された内容ですが、補償対象は認知症患者に限りません。子供が線路内に立ち入った場合も補償対象となる可能性がありますし、健常な成人でも駅のホームから誤って線路上に転落してしまい、電車を運休・遅延させて賠償責任を負ったような場合も補償対象となる可能性があります。なお、個人賠償責任特約は故意に起こしたことは補償対象にはならないので注意してください。
補償内容をよく確認しよう
電車との接触を伴う事故は従来の補償内容であっても補償を受けられる場合が多いですが、接触を伴わない場合の補償はここ1、2年で補償対象に含まれ始めた内容です。そのため、保険会社によって補償内容として含まれている場合も含まれていない場合もあります。
実際にそうした事故を起こす確率は高くありませんが、起こしてしまった場合の賠償額は非常に大きくなります。補償範囲に含まれている方がよいという場合は契約する保険会社の補償内容をよく確認するようにしましょう。約款等を読めば確認することは可能ですが、分かりづらい場合は保険会社や代理店に尋ねてみるとよいでしょう。ダイレクト型(ネット型)の自動車保険でも保険会社に問い合わせてはいけないということはありません。分からない点は確認して疑問点を解消しましょう。
まとめ
電車との事故において、電車と接触して物的損害を与えた場合は従来の補償内容でも補償されることが多いですが、電車と接触せずに物的損害を与えない場合は従来の対物賠償責任保険や個人賠償責任特約の内容では補償対象とはならないです。ここ1、2年の流れとして、認知症患者の賠償リスクへの関心の高まりから接触を伴わない場合の賠償についても補償対象として含まれることが増えてきています。自分が契約しているもしくは契約する予定の保険会社がどういった内容になっているのか事前によく確認しておくようにしましょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。