自動車保険の特約の中に被害者救済費用特約というものがあります。自動付帯される特約なので、自分で追加した覚えがないのに補償内容に含まれていて「どのような特約なのか詳しく知りたい」と思う方もいるのではないでしょうか。本ページでは被害者救済費用特約についてどのような特約なのか詳しく説明します。
もくじ
被害者救済費用特約とは?
被害者救済費用特約とは、契約車両の欠陥や不正アクセス等に起因する人身事故または物損事故が起こり、被保険者(運転者など)に法律上の損害賠償責任がなかった場合に、被保険者が負担する被害者救済費用に対して保険金を支払う特約です。ただし、保険金が支払われるのは契約車両の欠陥や不正アクセス等の事実がリコールや警察の捜査などの客観的な事実によって確認できる場合に限ります。
被害者救済費用特約について、損害賠償請求権やお金の流れを図示すると以下のようになります。
この特約が生まれた背景
被害者救済費用特約は自動運転の発展が進む中で、従来の自動車保険では迅速に被害者救済を図ることができない事例が生じてきたこと、運転者等に責任がないことが判明した場合は被害者救済を図ることができないことを背景に開発された特約です。問題となるのは具体的に以下のような事例です。
- 自動走行システムの欠陥に起因して、被保険自動車に想定外の動作が生じ、相手車に衝突した場合
- ハッカー(クラッカー)が被保険自動車を操作したことが原因で、相手車に衝突した場合
被害者救済費用特約によって、上のような事例で損害賠償責任の所在が不明であっても保険金支払いに向けての対応が可能となりました。
従来の自動車保険 | 被害者救済費用特約導入後 | ||
---|---|---|---|
運転者の法律上の損害賠償責任 | あり | ○ | ○ |
不明 | × | ○ | |
損害賠償責任の有無が不明なため、保険金支払いに向けた対応ができない | 損害賠償責任がある場合でもない場合でも対応できるため、保険金支払いに向けた対応が可能 | ||
なし | × | ○ | |
保険金支払いに向けた対応ができない | 被害者救済費用特約により保険金支払いに向けた対応が可能 |
保険金はいくら支払われる?
1回の人身事故または物損事故について被害者救済費用特約で支払われる保険金は以下の通りです。ただし、それぞれ対人賠償保険金額・対物賠償保険金額を限度とします。多くの場合は無制限にしてあると思いますが、保険金額を下げている場合はご注意ください。
人身事故
「被保険者が被害者等に対して負担する被害者救済費用の額」+「請求権保全・行使手続費用」
物損事故
「被保険者が被害者等に対して負担する被害者救済費用の額」+「請求権保全・行使手続費用」-「対物賠償保険の免責金額(設定している場合)」
等級はどうなる?
被害者救済費用特約のみを使用した場合は翌年のノンフリート等級に影響しないノーカウント事故として扱われます。他に等級に影響する事故を起こしていない場合、無事故のときと同様に翌年の等級は1等級上がります。
自動運転に対する自賠責保険での対応
国土交通省に設置された「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」では、レベル0~4の自動車が混在する当面の過渡期(~2025年頃)の対応を次のように整理しています。なお、自賠法上の責任に限定した整理で、任意の自動車保険の根拠となる民法上の責任や製造物責任法等は対象に含まれていません。
出典:損害保険料率算出機構「自動運転における損害賠償責任と保険」
自動運転システムの欠陥を原因とする事故
自動車事故の被害者に対する迅速な救済を引き続き確保するため、自賠法に基づき損害賠償責任を運行供用者に負わせることとし、従来通り自賠責保険から支払いが行われます。
外部情報の誤りを原因とする事故
地図情報やインフラ情報など外部情報に誤りがあった場合も想定した安全な車づくりを促す観点から、このような安全性が確保されていない車は「構造上の欠陥または機能の障害」を有する可能性があるとされています。この場合、運行供用者が損害賠償責任を負うこととなり、自賠責保険から支払いが行われます。
ハッキング(クラッキング)を原因とする事故
盗難車による事故と同様、政府保障事業により対応することが妥当とされています。ただし、自動車の保有者がセキュリティ対策に必要なソフトウェアアップデートを怠っていた場合などでは、保有者の損害賠償責任が追及される可能性もあります。
まとめ
今後、自動運転車が次第に普及していくと考えられます。そうしたとき、事故時の責任の所在がすぐには分からずに被害者への補償が遅れてしまうことが懸念されます。そうした事態に対応するために、各社の自動車保険では「被害者救済費用特約」が自動付帯されるようになってきました。「自動運転車ではないのに勝手につけるな!」と思うかもしれませんが、追加で保険料がかかっているわけでもありません。自動車保険の見直しを進めている場合は他の補償内容や保険会社自体を見直すようにしましょう。
著者情報
堀田 健太
東京大学経済学部金融学科を卒業後、2015年にSBIホールディングス株式会社に入社、インズウェブ事業部に配属。以後、一貫して保険に関する業務にかかわる。年間で100本近くの保険に関するコンテンツを制作中。