居眠り運転は、重大な事故を引き起こしかねない、極めて危険な運転です。居眠り運転による事故を起こさないようにするためには、居眠り運転の前兆や原因を理解し、さまざまな防止策を講じておく必要があります。
しかし、高速道路の長時間の運転で眠気を感じたり、ヒヤッとしたりしたことがある人も、少なくはないはず。では、居眠り運転をどのように防いだらいいのでしょうか。
この記事では、居眠り運転の原因や前兆のほか、防止策と事故を起こした場合の罰則について解説します。
もくじ
居眠り運転の原因
危険な事故の要因となる可能性があるにもかかわらず、なぜ居眠り運転をしてしまうのでしょうか。まずは、居眠り運転の原因について解説します。
睡眠不足
居眠り運転の主な原因として、睡眠不足が挙げられます。睡眠が足りないと脳の機能・活動が大幅に低下し、認知・判断・予測・操作という、車の運転に必要な能力が欠如しやすくなるからです。
人間に必要な睡眠時間は明確な基準こそないものの、その人にとって最適な睡眠時間が足りず、「睡眠負債」が溜まった状態が続くと、健康にも大きな影響を及ぼします。
睡眠不足の状態で長時間・長距離の運転をすると眠気が生じやすくなり、事故のリスクが高まるので注意が必要です。
睡眠の質の低下
質の悪い睡眠も、居眠り運転の原因となります。慢性的なストレスや騒音などによって睡眠の質が低下すると、十分な休息を取ることができず、運転中の眠気を引き起こしかねません。
寝つきや寝起きが悪かったり、夜中に目が覚めてしまったりといった状況は、睡眠の質が良くない傾向があるといえるでしょう。
睡眠時無呼吸症候群などの病気
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が一時的に停止したり減少したりすることを繰り返す病気を指します。SASは、睡眠時間が足りていたとしても日中に強い眠気を引き起こし、運転中の事故リスクの増加だけでなく、仕事の生産性低下などの要因にもなるのです。
SASを放置すると健康にも深刻な影響を与え、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めます。
服薬の副作用
風邪やアレルギーのために服薬する薬は、抗ヒスタミンなどの成分による副作用として、強い眠気を引き起こすことがあります。
服薬して居眠りや意識障害を引き起こす薬が処方されるときは、「車の運転は控えてください」と医師や薬剤師から説明を受けるのが一般的です。
これを守らず、服用後に運転することは道路交通法違反となり、服薬後の運転で事故を起こした場合は危険運転とみなされる可能性があります。
高速道路催眠現象
高速道路催眠現象とは、車で高速道路を走っているとき、単調な景色や運転操作の少なさが原因で意識がもうろうとして、判断力や注意力が低下してしまう現象です。
この現象は睡眠時間の多寡や疲労の有無にかかわらず起こり、居眠り運転の一因となります。
居眠り運転の防止策
運転中に眠気を感じても居眠り運転とならないようにするために、いくつかの対策を講じてみることをおすすめします。ここでは、居眠り運転の防止策を8つご紹介します。
15~30分の仮眠を取る
15~30分程度の仮眠は、効果的な居眠り運転防止策です。特に、高速道路を利用して長距離運転する際には、サービスエリアやパーキングエリアで短時間の仮眠を取ることで眠気が解消でき、集中力を回復させることができます。仮眠後に顔を洗ったり体を動かしたりすれば、スッキリとした状態で運転を続けられるでしょう。
ただし、仮眠後すぐの運転は、脳が十分に目覚めていないので避けてください。また、30分以上眠ると脳が覚醒するまでに時間がかかるため、逆効果になることもあります。
新鮮な空気を取り入れる
居眠り運転を防止するため、窓を開けたり、エアコンを「外気導入モード」に設定したりして、外の空気を車内に取り入れることも有効です。一般社団法人日本自動車連盟(JAF)の調査結果でも、長時間密閉された空間では空気中の二酸化炭素(CO2)の量が増え、眠気や頭痛を感じやすくなるとされています。
1時間に1回程度は定期的に窓を開けたり、エアコンを外気導入モードに変えたりして換気し、車内の空気を新鮮に保つよう心掛けましょう。
カフェイン入りのドリンクを飲む
カフェインには、眠気を抑える効果があるため、居眠り運転防止に役立ちます。カフェインが入ったコーヒーやお茶、エナジードリンクを摂取すると眠気を防ぎ、運転中の集中力を保つことができます。
ただし、カフェインの効果が現れるまでには、少し時間がかかることに注意しなければなりません。ドリンクを飲み、15~30分程度の休憩を取ってから運転することをおすすめします。
また、カフェインには利尿作用がある点にも注意してください。
ガムを噛む
ガムを噛むことは、居眠り運転を防ぐための手軽な方法といえるでしょう。噛む動作が脳を活性化させ、眠気を覚ます効果があります。
ガムの味はミントなど、刺激の強いものがおすすめです。
運転前の食事に注意する
食事をした直後は、消化活動のために血液が胃に集まり、眠気を感じやすくなるものです。ですから、食後すぐは、運転をしないようにしましょう。
また、糖質を多く含んだ食事をとると、急激な血糖値の上昇により、強い眠気に襲われます。野菜から先に食べるようにしたり、「丼+麺類」のように糖質のセットを食べたりしないようにすれば、血糖値の急上昇を避けることが可能です。
同乗者と会話をする
同乗者がいる場合は、同乗者と会話をすることで居眠り運転を防止できるでしょう。話をすることで脳が活性化し、眠気を感じにくくなります。
ただし、会話に集中しすぎると漫然運転となり、事故の原因にもなるので注意が必要です。
長距離走行時は2時間ごとに休憩する
長距離走行の際には、2時間ごとに休憩を取ることが居眠り運転の防止につながります。
高速道路の場合はサービスエリアやパーキングエリアで、前述のように仮眠やカフェイン入りドリンクの摂取などを行いながら、定期的に休憩を取りましょう。
アラート機能付きドライブレコーダーを活用する
最近のドライブレコーダーには、危険な運転を察知してアラートを出す機能があるものもあります。高機能なものではまぶたの動きを感知して異変に気付くといったものもありますが、そこまでではなくても、運転中の車線の逸脱やふらつきなどでアラートを発して注意喚起します。
自動車保険の中には安全運転のための機能がついたドライブレコーダーが特約として含まれているものもあるので、自動車保険選びの際にチェックすることをおすすめします。
居眠り運転の前兆
居眠り運転には前触れがあります。この兆候が出たら、できる限り早めに対策を講じるべきでしょう。
ここでは、居眠り運転の前兆がどのようなものか解説します。
あくび・まばたきが多くなる
居眠り運転の前兆として、あくび・まばたきが多くなることが挙げられます。運転中に頻繁にあくびをしたり、まばたきの回数が多くなったりしたら、脳や目に疲労が蓄積しているサインです。目に関しては、かすんだり乾いたりするのも居眠り運転の前触れといえます。
あくび・まばたきが増えていることに気づいたら、できる限り早めに休憩を取り、リフレッシュするようにしましょう。
抗眠気行動をとる
抗眠気行動とは、無意識のうちに顔や頭などをさわったり、伸びやストレッチをしたりして眠気に抗う行動のことです。抗眠気行動をとるようになったら、居眠り運転の兆候といえます。
広島大学が2023年に発表した研究結果では、眠気が表れるとまずこの抗眠気行動が見られ、さらに眠気が強くなると抗眠気行動が減少し、代わりに15秒未満の短い睡眠である「マイクロスリープ(瞬眠)」が起きることが明らかになっています。
まっすぐ走れなくなる
車を車線内に維持できず、まっすぐ走れなくなることは居眠り運転に非常に近いサインといえます。運転中に車が左右にふらつくようになったり、気がついたら路肩を走行していたりする場合は、すぐに安全な場所に停車して休憩を取るべきでしょう。
気がついたら路肩を運転しているような状況はマイクロスリープが起きている可能性があり、非常に危険です。
居眠り運転の事故が起きやすい時間帯
居眠り運転を原因とする事故が起きやすい時間帯は、科学的に明らかになっています。
公益財団法人国際交通安全学会が2013年に発表した「居眠り運転発生の生理的メカニズム」という論文によると、午前0時~早朝、午後2~4時の2つの時間帯に起きやすいとされています。
これは、夜間の眠気は、夜間時に人間の体温が低下することが原因です。
一方、午後の眠気については、12時間ごとに眠くなる人間の生体リズムによるものと考えられています。つまり、昼食後や睡眠不足ではなくても、眠気が発生しやすいといえるため注意が必要です。
居眠り運転で事故を起こした場合の罰則
居眠り運転で万が一事故を起こした場合、どのようなペナルティを科されるのでしょうか。最後に、居眠り運転で事故を起こした場合の罰則について解説します。
行政上の処分
居眠り運転によって事故を起こすと、行政上の処分として、道路交通法第70条で定められた「安全運転義務」に違反したこととなり、運転者には違反点数2点が加算されます。また、普通車の場合は反則金として、9,000円が科せられます。
なお、居眠り運転の状況次第では、道路交通法第66条の「過労運転の禁止」に該当する可能性があり、違反点数25点が科される可能性があるので注意が必要です。
刑事上の処分
居眠り運転による事故は重大事故につながりやすく、事故相手を死傷させる可能性もあります。
その場合、居眠り事故は犯罪として立件され、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われることもあります。
それぞれの罰則は、下記のとおりです。
<刑事上の処分で科される罰則>
- 過失運転致死傷罪:懲役7年以下または罰金100万円以下
- 危険運転致死傷罪:懲役15年以下、死亡させた場合は1年以上の有期懲役
居眠り運転で起こした事故は自動車保険で補償される?
居眠り運転で起こした事故であっても基本的に自動車保険の補償は受けられます。特に対人賠償や対物賠償に関しては被害者救済の観点から故意に起こしたなど特別な理由がなければ保険金が支払われます。
ただし、人身傷害や車両保険などの自分に対する補償に関しては、重大な過失と判断されるような状況であれば保険金が減額されたり支払われなかったりする可能性があります。
まとめ
居眠り運転は、睡眠不足や質の悪い睡眠のほか、服薬の副作用やSASなどの病気によって起きやすくなります。事故を起こさないようにするには、居眠り運転対策を万全にしておきたいところです。
居眠り運転の防止策にはさまざまな種類があります。十分な睡眠をとるなどの事前の対策が大切ですが、運転中に眠気を感じたら防止策を試してみて、場合によっては運転を中断するようにしましょう。
仮に居眠り運転で事故を起こしてしまっても自動車保険の補償は受けられます。ただし、居眠り運転で事故に至るまでの状況によっては、人身傷害や車両保険など自分への補償に関しては保険金が減額されたり保険金が支払われなかったりする可能性がありますので注意しましょう。