自動車保険の「自転車特約」とは、自動車保険の契約車を運転する人とその家族が補償対象となる特約です。自動車保険の自転車特約により、自転車の運転中に遭った事故によってケガを負っても、治療費や入院費などを保険金として受け取ることができます。
では、事故相手が負ったケガや後遺障害、またはモノの損害については補償されるのでしょうか。
また、近年各自治体で加入が義務化されつつある自転車保険との違いや、自動車保険の自転車特約で、この義務化に対応できるのか知りたいと思う人も少なくないはず。さらに、補償を受けた際に自動車保険の等級に影響があるのかも気になるところです。
この記事では、自動車保険の自転車特約の補償対象と自転車保険との違いのほか、自転車特約で補償されるケース・補償されないケースについてご紹介。自動車保険の等級への影響についても解説します。
もくじ
自動車保険の自転車特約とは?
自動車保険の自転車特約とは、自動車保険で契約した車を主に運転する「記名被保険者」やその家族が、自転車を運転中に事故に遭った場合、自身のケガや後遺障害などに関して、保険金が支払われる特約のことです。
この自動車保険の自転車特約は、保険会社によって名称や内容に違いはあるものの、概ね「自転車の運転中に生じた事故」を対象としています。
自転車保険との違い
自転車保険とは、一般的に「傷害保険」と「個人賠償責任保険」で構成される保険のことです。
傷害保険は自身を、個人賠償責任保険は相手を対象として補償します。個人賠償責任保険は、相手の生命や体に関すること(死亡やケガ、後遺障害など)の入院費や通院費だけでなく、相手の家や車といった財産・モノへの損害賠償金も対象となります。具体的な補償対象は、下記のとおりです。
相手 | 自身 | ||
---|---|---|---|
生命・体 | 財産・モノ | 生命・体 | |
傷害保険 | × | × | ◯ |
個人賠償責任保険 | ◯ | ◯ | × |
参照:一般社団法人日本損害保険協会「自転車事故と保険」
自転車保険は2024年4月現在、実際に34都府県で加入義務化され、10道県において努力義務が設けられています。
この流れは、自転車事故の被害者に対して、数千万円単位といった高額の損害賠償金を支払う判例が出ていることが理由です。
なお、この自転車保険と、自動車保険の自転車特約との違いは、主に次のようなものがあります。
自転車保険 | 自動車保険の自転車特約 | |
---|---|---|
単体での加入 | ◯ | × |
自身への補償 | ◯ | ◯ |
相手への補償 | ◯ | △(別途付帯する必要がある) |
自転車保険に対して自動車保険の自転車特約は、個人賠償責任保険の要素がなく、補償範囲が限定される点が大きな違いといえるでしょう。 また、自動車保険の自転車特約は、自動車保険のオプション契約として設定されたものであり、単体では加入できない点も異なります。
ちなみに、自転車保険と混同しがちな「TSマーク付帯保険」は、TSマークが貼られた自転車を運転している人すべてが対象です。自転車安全整備士が点検整備して、安全であることを確認した証明であるTSマークには、自身と相手に対する補償が含まれます。
自転車の加害事故による高額損害賠償金の事例
自転車事故によっては、下記のように高額な損害賠償金が生じることがあります。加入が義務化または努力義務となっている自治体以外でも、事故相手が補償を受けられる自転車特約や自転車保険に加入しておきたいところです。
判決日と判決を出した裁判所 | 判決認容額 | 自転車事故の概要 |
---|---|---|
2008年6月5日 (東京地方裁判所判決) | 9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員には重大な後遺障害(言語機能の喪失等)。 |
2013年7月4日 (神戸地方裁判所判決) | 9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった。 |
2020年7月22日 (高松高等裁判所判決) | 9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折等で約2ヵ月後に死亡。 |
参照:一般社団法人日本損害保険協会「知っていますか?自転車事故の実態と備え」
自動車保険の自転車特約の補償対象
自動車保険の自転車特約の補償対象となるのは、自動車保険の契約車を主に運転する記名被保険者と、その家族です。具体的な補償対象は、下記のとおりとなっています。
<自動車保険の自転車特約の補償対象>
- 記名被保険者自身
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者と同居する親族
- 記名被保険者の別居の子供(未婚)
前述のとおり、自動車保険の自転車特約において事故相手のケガや後遺障害は、基本的に補償の対象外となる点に注意してください。
自動車保険の自転車特約で補償されるケース
自動車保険の自転車特約では、具体的にどのような事故の損害が補償されるのでしょうか。ここでは、自動車保険の自転車特約で補償されるケースについて解説します。
自転車同士で事故に遭ってケガをした
自身と相手が互いに自転車を運転しており、自転車同士で事故が発生してケガを負ったケースは、自動車保険の自転車特約の適用対象です。 この場合、自動車保険の自転車特約で、自身のケガの治療費や入院費が補償されます。
自転車運転中に単独で転倒してケガをし、後遺障害が残った
自身や配偶者・家族が自転車を一人で運転中、単独で転倒してケガを負ったり、後遺障害が残ったりしたケースにおいても、自動車保険の自転車特約を使うことができます。
この場合は、治療費や入院費に加えて、後遺障害の程度に応じた保険金が支払われることになります。
自動車保険の自転車特約で補償されないケース
自転車事故を起こしても、自動車保険の自転車特約では補償されないケースもあります。続いては、自動車保険の自転車特約で補償されない具体的なケースをご紹介します。
歩行者を自転車ではねた
自身や家族が自転車を運転中に歩行者をはねて、相手がケガを負ったり、後遺障害が残ったりしたケースでは、その治療費や入院費などを、自動車保険の自転車特約で補償することはできません。
ただし、保険会社によるものの、個人賠償責任保険の内容を含む自転車特約に加入していれば、補償される場合があります。また、自転車特約に個人賠償責任保険の内容を持つ「個人賠償責任特約」をセットしておけば、事故相手への補償を行うことが可能です。
重大な過失や法令違反を起こした
自動車保険の自転車特約は、本人の重大な過失による事故や、法令に違反して起こした事故においては、補償の対象外となります。具体的には、下記のようなケースです。
<自転車による重大な過失や法令違反の例>
- 酒気帯び運転など、被保険者本人に重大な過失がある
- 故意の事故である可能性がある
- 法令違反の自転車を運転して生じた事故
その他、海外で発生した事故や地震が原因の損害、競技用自転車による競技中・練習中の事故などでは補償を受けられません。
自動車保険の自転車特約加入時の注意点
自動車保険の自転車特約に加入する際には、いくつか気をつけたい点があります。ここでは、自動車保険の自転車特約に加入する際の注意点について解説します。
補償内容の重複をチェックする
自転車特約の一部や自転車保険は、自転車運転中の事故における相手のケガなどが補償対象です。ただし、クレジットカードに付帯する個人賠償責任保険や、火災保険の個人賠償責任特約が、自転車事故の相手への補償を含んでいることもあるため、しっかりチェックしましょう。 重複している場合には加入内容を見直せば、保険料の節約につながります。
等級に影響が出るかどうかチェックする
自動車保険の自転車特約は、事故に遭って使用しても、次年度の等級はダウンせず、保険料にも影響しないのが一般的です。これは、相手への補償を行う、個人賠償責任特約でも同様です。
ただし、保険会社によっては、自動車保険の等級に影響を及ぼす場合もあります。自身の自動車保険の特約の契約内容を、しっかり確認しておきましょう。
自転車特約は保険会社によって内容や名称が異なる
自動車保険の自転車特約は保険会社によって補償範囲が異なり、特約の中に自身だけでなく、相手への補償が含まれているものもあります。また、名称に「自転車」と記載されていない特約でも、実際には自転車の事故を補償範囲とする場合があるので注意が必要です。 加入の際には、補償範囲の過不足がないかどうか、しっかりと比較・検討してください。
保険会社によって異なる自動車保険の自転車特約を、正しく選ぼう
自動車保険の自転車特約は、主に自身や家族の自転車運転中のケガなどを補償対象とするものです。個人賠償責任特約を付帯することで、高額化する自転車事故の被害者への損害賠償金に対して有効となります。加入を義務化する自治体は増えている傾向にありますが、加入義務がない自治体に在住していても、万が一に備えて加入しておきたいところです。
ちなみに、保険会社によって、自転車特約の名称や補償範囲は異なります。自身に合った自転車特約を探すには、複数の保険会社に確認する必要があります。加入や更新の際には、複数の保険会社に見積もりを依頼して、比較・検討してください。その際には、自動車保険の一括見積もりサービスを利用して、手軽に見積もり依頼をしましょう。
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