「追突事故」とひとえにいっても様々な事故形態があり、必ずしも100:0とはなりません。高速道路上では、駐停車が禁止されていることから追突を受けた側も過失を問われてしまいます。
高速道路といえば、渋滞中の追突事故が多く発生しています。渋滞中の追突事故は、複数台が絡む玉突き事故や多重事故に発展する可能性があります。
もし、玉突き事故などの加害者となってしまった場合、台数が増える分、賠償しないといけない範囲が増えてしまいます。それらの事故の無限の可能性に対して、対人・対物賠償責任保険で備えておきましょう。
高速道路上で駐停車は禁止
高速道路では高速での走行が許容され、最低速度を維持する義務があり、駐停車は禁止されています。
そのため、高速道路上で駐停車したり、急ブレーキをかけた場合の追突事故は追突を受けた車にも過失割合が問われ、100:0とはなりません。やむを得ない事情がない限り、賠償責任が課せられることになります。
本線車道等に車を駐停車させた場合には、一般道路よりも事故発生の危険が高くなることから、高速道路上における駐停車に関する法規則の内容は一般道路の場合と異なっています。
道路交通法上の規則
道路交通法 第75条の8第1項:高速道路において、一時停止、停車、駐車が禁止されている旨が定められています。
道路交通法 第75条の11第1項ならびに2項:故障などによって車が動かなくなった場合は、速やかに本線車道等以外の場所に移動させ、駐停車していることを表示させないといけない旨が定められています。
高速道路の特例
一般道路については、人や車両の混雑が予定されており、人と車両又は車両同士の接触を回避することが中心に考えられています。
しかし、高速道路は自動車のみの通行を予定する道路であり、一般道路よりも高速での走行が許容されています。そのため、高速道路における自動車の安全かつ円滑な走行を確保されるために一般道路と違って特例が定められています。
①最低速度を維持する義務
②横断・転回・後退の禁止
③本線車道通行車の本線車道進入車に対する優先
④本線車道出入時の加速車線・減速車線通行義務
⑤駐停車の原則的禁止
⑥燃料・冷却水・オイルの量、貨物の積載状態を点検する義務
⑦本線車道等に停止したときに停止表示を行う義務
⑧本線車道等に運転できなくなったときの退避義務
これらの特例があることより、本線車道等に車を駐停車させた場合、一般道路よりも事故発生の危険が高くなり、駐停車した車の過失が大きくなることがあります。
高速道路上での追突の過失割合
前方のA車が高速道路上で落ち度を認めるべき事情により駐停車し、B車が前方不注意により後方から追突した場合は、両車に賠償責任が発生します。
つまり、一般道路では駐停車中の車に後方から追突した場合、基本的には100:0の過失割合となりますが、高速道路上では駐停車は原則禁止となっている為、駐停車している時点で賠償責任が生じ、基本の過失割合はⒶ40:Ⓑ60となります。
例えば、以下のような場合は追突を受けたA車にも賠償責任が発生してしまいます。
・A車の事前の整備不良によるガス欠・エンジントラブル
・A車に過失がある先行して発生した事故などにより駐停車した場合
・A車は路肩等への退避が可能であったにもかかわらず退避措置を怠って駐停車した場合
・停止表示器材の設置が可能であったにも関わらずに怠った。
・風景など見物の為に意図的に駐停車していた場合。
判例
実際に40:60となった高速道路上での追突の判例をみてみましょう。
大阪地方裁判所 平成28年2月19日
過失割合 40 : 60
道路形態:片側2車線の高速道路 最高速度:時速80キロメートル
事故当時の状態:曇りで、交通量は少なく、事故現場付近は暗かった
概要:A車は(中型貨物自動車)は走行中にエンジン異常があり、道路の路肩に停車し異常点灯を点滅させ、非常停止器材や発煙筒を探しながら20~30分間車内にとどまっているうちに、B車(普通貨物乗用車)が首を回しながら進行し、数秒後に視線を戻したところ、前方のA車の発見が遅れ後方から追突した。
争点
①高速道路上において、駐停車の為の十分な幅員がある路肩又は路側帯でなければ駐停車することはできないところ、本件道路の幅員はA車の車幅より明らかに狭かったにも関わらず停車させた。
②A車は速やかに停止表示器材を設置せず20~30分間停車し続けた。
③首を回しながら進行したためのB車の前方不注意。
車両が動かなくなり本線車道や路肩等に停止したときは、発炎筒、停止表示板又は停止表示灯を速やかに車両の後方に設置して、後続車へ停まっていることを知らせましょう。
出典:伊藤秀城,「交通事故における過失割合 自動車事故及び消滅時効,評価損等の諸問題」,日本加除出版,2019年,P.344
高速道路上でのやむを得ない駐停車
高速道路上での駐停車中の車への追突事故は、その追突を受けた車の駐停車がやむを得ない事情であったかどうか、他に措置はなかったのかがポイントとなります。
追突を受けた車でも何かしらの落ち度を認めるべき事情で駐停車をしたことにより追突事故が発生した場合は、賠償責任が発生しますが、どうしようもなくやむを得ない事情で駐停車した場合はどうなるのでしょうか。
高速道路上で追突を受けた車はやむを得ない事情で駐停車しており、その後の対応についても問題ない場合は100:0となります。
しかし、やむを得ず駐停車した後、退避することは可能であったのにしなかった、もしくは停止表示器材の設置を怠った場合、運転することが出来なくなった時の義務(道路交通法75条の11)に違反することとなり、基本の過失割合は80:20となります。
高速道路の本線車道では、車の流れに沿った円滑な走行が一般道より強く求められており、また、予想外の急ブレーキが事故を引き起こす可能性が大きい為、一般道に比べて前方を走る車の方が過失割合が大きく課せられます。
高速道路上での追突100:0の例
・過失のない先行事故によって本線車道等に駐停車した後、退避することが不可能であり、かつ、停止表示器材を設置した。
・被追突車の運転者が死傷した。
・故障等のやむを得ない理由で路肩又は路側帯に駐停車中に後方から車が追突した(路肩又は路側帯は原則として車両の走行が禁止されている部分であるため)。
・時間的余裕がなかったことにより、停止表示器材を設置できない状況下であった。
判例
実際に過失割合が100:0となった高速道路上での追突事故をみてみましょう。
大阪地方裁判所 平成26年10月23日
過失割合 100 : 0
道路形態:片側3車線道路 当時の状況:天候は雨で道路は濡れていた。
概要:B車が追越車線に車線変更した後に、前方の走行車線から追越車線に他の車が進入してきた為、接触を避けるべくハンドルを右に切って停止したところ、後方から追越車線を走行してきたA車がB車に追突した。
A車がB車の動向を最初に認めたのはB車の後方29.1mより更に後方であり、B車の車線変更開始時においてA車との車間距離は進路変更するのに十分な距離であった。
争点
①B車は前方の車を追越車線に進入させた後、急ブレーキをかけたが、その車との接触を避ける為でありやむを得ない正当な理由として行ったものであり、過失は認められない。
②A車はB車の動向や距離を十分に注意せず漫然と走行し続けた前方不注意の過失によって追突した。
出典:伊藤秀城,「交通事故における過失割合 自動車事故及び消滅時効,評価損等の諸問題」,日本加除出版,2019年,P.350
事故を未然に防ぐ為に
車両が動かなくなり本線車道や路肩等に停止したときは、発炎筒、停止表示板又は停止表示灯を車両の後方に速やかに設置して、後続車に合図する。
渋滞末尾で停止・減速する際はハザードランプを点灯して後続車に合図する。
前方の停止車両に注意する。
故障やトラブルが起きないよう出発前には必ず車両点検を怠らない。
玉突き事故
「玉突き事故」とは、A車→B車の追突の反動でB車が前に押し出され、更に前方のC車にも追突する事故です。そしてまたその反動により更にその前の車にも追突、また更にその反動で前の車に追突、、、、ということもあり得ますので、3台の玉突き事故、4台、5台という場合もあります。
では1つの事故に車が複数台絡む場合、責任割合はどのようになるのでしょうか。基本的な考え方は追突事故と同じです。
例えば、高速道路上の渋滞中にノロノロ運転でA車が車間距離不足、前方不注視、脇見運転等でB車に追突し、更にその反動でC車に追突した場合は、C車はもちろんB車には責任の所在はなく、Ⓐ100:Ⓑ0:Ⓒ0となります。
また、B車やC車が正当な理由により駐停車していたにも関わらず、A車のブレーキが間に合わず、A車→B車に追突しその反動でB車→C車に追突した場合も、B車→C車の追突はA車の車間距離不足によるものである為、過失割合はⒶ100:Ⓑ0:Ⓒ0となります。
道路交通法上の規則
道路交通法 第26条第1項:車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。
判例
6台の玉突き事故の判例を紹介します。
岡山地方裁判所 平成19年12月4日
概要:自車は自動車検査証に記載された最大積載量1万800キログラムを9770キログラム超える2万570キログラムの廃プラスチック類を積載して大型貨物自動車を運転していた。
自車の前方のA車とは十分な車間距離を保持せず,その動静を注視しないまま時速50ないし60キロメートルで進行したため、A車の発見が遅れ急ブレーキが間に合わず,自車後部に衝突してきたB車(普通貨物自動車)もろとも進行して,自車→A車に追突,その反動でA車が押し出し,その前方で停止中のC車(普通乗用自動車)に追突した。
そして更にその反動でC車を前方に押し出し,その前方で停止中のD車(大型貨物自動車)に追突し,更にD車を前方に押し出し,その前方で停止中のE車(普通乗用自動車)に順次玉突き事故となった。
A運転者は外傷性くも膜下出血により死亡、C運転者は加療221日間を要する右天骨骨折偽関節等,E運転者は加療約5日間を要する頸椎捻挫等,また、E車両に同乗中のFは加療約3日間を要する左手首打撲の各傷害を負った。
出典:裁判所,最高裁判例「平成20(さ)2 道路交通法違反,業務上過失致死,業務上過失傷害被告事件」
まとめ
追突事故の主な原因は、速度超過、車間距離不足、前方不注視、脇見運転などです。これらのミスからとんでもない損害賠償責任に繋がる可能性は皆あります。
もし6台の玉突き事故の加害者となってしまったら・・・
・被害車両の修理代はどうなるの?その修理期間中の代車や入庫までのレッカーはどうすればいいの?
・被害者人数分の治療費はどうすればいいの?もし後遺障害になってしまったら?
・相手方がお亡くなりになったら、葬儀などはどうしたらいいの?
交通事故で人や物への賠償責任が発生した場合、対人・対物賠償責任保険に加入していれば自分はもちろん相手方も安心します。
事故が起きないよう十分に配慮してても悪天候、急な車線変更や無理な割込みなど偶発的な事故の要素は様々な場面に潜んでいるため、上記のような最悪のケースに備えることが大切です。
万が一の法律上の賠償責任や社会通念上の道徳的責任を果たすためにも、必要最低限対人・対物賠償責任保険に加入することをお勧めします。